インタビューほか

自分が年をとったから書けた

「本の話」編集部 (作家)

『蒼煌』 (黒川博行 著)

言いたいことをどれだけ隠すか

――京都弁をはじめとする会話の妙もありますよね。室生を憎からず思えるのは、そういうところもあるように思います。黒川さんは会話のやり取りの部分をものすごく考えていらっしゃるようですね。

黒川 考えますよ。本当に作者の言いたいことをどれだけ隠して、自然に会話として書けるかいうのはわりに難しいし、時間もかかります。それだけにうまいこと会話がつながったときはうれしいですけどね。

――隠してというのは、あまりストレートに言わないようにされている?

黒川 うん。著者が言いたいことをそのまましゃべらすのではなくて、できるだけ隠すんです。違うことを言うてるみたいにして、本当はこれを言わしてるんや、というのをうまいことせりふでね。新人賞を受賞した小説なんかを読んで、このせりふはなんでこんなに生やねんと思うことはあります。なんでこんなふうに二人のやり取りで説明をさせてるのか。説明というのは出来るだけ避けたいんです。それはこの小説に限らず、小説を書き始めた頃から意識してます。

――会話以外でも、気にされていることはありますか。

黒川 地の文では、なるべく難しい熟語を使わない。柔らかいというか、平仮名で書けるような言葉にしたいかな。たとえば、「躊躇する」なら「ためらう」とか、「拘泥する」なら「こだわる」とかね。そやけど、柔らかいだけやったら流れるままで引っ掛かりがないから、時々引っ掛かるような言葉も入れたり、あとは語り手によって少し地の文章は変えるようにしてます。殿村の視点と、梨江の視点は、当然違う。殿村は少し難しい言葉を入れてもいいけど、梨江の視点のときは、もっと簡単に。視点が誰かというのは意識します。そういう意味では、難しい言葉よりも、平易な文章のほうが難しいですね。そんなふうに考えて推敲するから、原稿書くのに時間がかかるんですけど(笑)。

――久々の長編ですが、長編と短編を書かれるときでは、スタンスは結構違ったりするものですか?

黒川 違いますね。短編の場合は、結末まである程度のシノプシスは考えます。長編は行き当たりばったりで、えいや、と始める。長編は序盤に、特にキャラクターを描くようにします。キャラクターを書いたら、あとはわりに転がっていく。職業によって人は作られる部分があるから、職業を書き込んでいくと、性格も出てくるように思います。今回は絵描きやから、わりに楽でしたよ。モデルがいっぱいいますから。

――大村のモデルというのも?

黒川 それはいませんね。いませんけど、ああいう連中はいっぱいおるもんな。絵の良し悪しいうのは、一定のラインを超えたら、あとは好き嫌いなんですよ。好きになってもらうには、上に一所懸命へつらうしかないんですね。決定的に人より上手いとか、人より良い絵いうのは、めったにないです、特に日本画は。それでも、芸術院会員クラスになると、少し絵が変わりますね。省略のすごさかな。やっぱり上手い。いや、上手い下手じゃない、なんか匂いが違うんやな。それがわかるようになったのは、やっぱりこの十年ですね。

――読者に向けてメッセージというか、ここをぜひ読んでほしいというところがあれば。

黒川 なんですかね。絵描きの実態……いうのもおかしいな。そやけど、やっぱり絵描きの実態なんやろな。絵を描くというのはどういうことか。どんなふうにして絵を売っているのか、どんなふうに絵を描いているのか、どんなふうに生活をしているのか、世間の人はたぶん知らんですね。本当、特殊な職業やもんな。この中に出てくる梨江なんかも食えてへんもん。だから、絵を描くのが好きいう人間はいっぱいおるけど、画家になるのはやめたほうがいいですよ、と(笑)。

蒼煌
黒川博行・著

定価:本体670円+税 発売日:2007年11月09日

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