――南さんがこれまで何百人と本人になられてきた中で特に印象的だったという人はいますか?
南 『本人の人々』(マガジンハウス刊)のときなんですけど、猪瀬直樹。これが似ないんですよ。本当に苦労した。前の仕事場で、鏡の前で顔を作って行くと、編集者とカメラマンが談笑してる。ドアを開けるとこっちを見て、またすぐ話に戻っちゃったんですよ。似てたら「あ、」とか、なんか反応があるじゃないですか。それが全然ない。しょうがないからまた鏡の前に戻って、どうしたら似るんだろうって孤独な作業のやり直しです。結局、形とかより感情なんですよ、表情。猪瀬さんって討論とかしてるとき、何度言ってもわかんないヤツだなあ、もう、「ダ・カ・ラァ……」って顔するじゃないですか。あの気持ちであの顔で入っていったら二人が「アッ!!」って言ったんです(笑)。今作のまえがきで、顔かたちというのは日常の表情の集積だって理屈を書きましたけど、本当にそうだなと。毎日している表情がその人の顔の印象を作っていく。顔の印象が寂しい人で本当はすごく快活な人ってあんまりいないでしょう? やっぱりそういう顔になっていくんですね。人を顔で判断できると思っている人に濃淡があるように、自分の顔に無頓着な人とそうでない人がいる。美人でも自分の顔に無頓着な女の人と意識している女の人では違う。毎日の表情の積み重ねで生まれもったかたちだけじゃないものが出てきますよね。
顔ってみんな持っているものだからわかっているはずなんだけど、どうわかっているかはわからない。似顔絵とか顔真似とか見ていてなんかの拍子にそのカラクリが垣間見えることがあってそれが面白いんじゃないのかなと思ってます……って、やってることがものすごくバカバカしいくせに大層な理屈を言う、って所がまたおかしいんだけどね(笑)。
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