山下 日本美術応援団も結成十一年目に入りました。そもそもは雪舟から始まって、当時あまり日の目を見ていなかった日本美術を応援してきたわけですが、だんだん取り上げる対象が広がってきて……。
赤瀬川 そうね、三冊前の『オトナの社会科見学』あたりからかな。国会議事堂とか。
山下 今回、とうとう工場や刑務所まできてしまったという(笑)。
南 だけど、工場は赤瀬川さんも山下さんも、もともと好きだよね。
山下 ぼくと赤瀬川さんとの共通の趣味であるカメラとか時計といったあたりから、必然的にこっちの方に向かってきたという感じですね。南さんはどうなんですか?
南 ぼくもそういう博物館に置いてあるようなものは好きですよ。具体的に自分でこだわって使ってるとか、こういうものが欲しいっていうのはあんまりないんだけど。所有欲はあんまりない。
赤瀬川 ぼくと山下さんはけっこう物欲がある(笑)。
南 ぼくの場合は、ものに対する愛情が足りないんだろうね。だけど、昔の機械が持ってる独特のかっこよさっていうのはわかりますよ。ピカビアとかデュシャンとかの感じ。
山下 ピカビア、デュシャン、未来派……。
南 博物館にはそういうものがときどきありますね。
赤瀬川 美術館はちょっとまとまり過ぎてる感じで、博物館的な世界には思わぬものがあるんだよね。
南 だけど、ものがプラスチックになってくると、なぜか愛情が持てない感じがしませんか。金属まではあったと思うんだけど。
赤瀬川 たしかに、ブリキのおもちゃって古くなるとそれなりに味が出てくるけど、プラスチックはどうなのかなって、前から思ってた。
南 プラスチックって抽象的なんだよね。ざらざらした感じとか、光沢があるとかっていう具体性がない。
意図せざる芸術の迫力
南 でも、博物館はともかく工場ってなかなか行かないよね(笑)。そういうところに美術を見にいくつもりで行くっていうコンセプトが面白い。
赤瀬川 いちばん最初に工場を見たのってどこでしたっけ?造船所だったかな?
山下 長崎の三菱造船所の史料館ですね。『オトナの社会科見学』に入ってます。あのときにちょっと目覚めましたよね。
赤瀬川 そう、ちゃんと見てもいいんだっていう。
南 なるほど、ちゃんと見てもいい(笑)。見るべきものだと思ってなかったものを、あえて見てみるときに面白さが出てくるわけだよね。