──男っぽいというか、くっきりとしていて、崩れない。非常に微妙なお母さまの心の内とか、お父さまはこうだったであろうと推測するくだりとか、いっさいの曖昧さを排して明確に見つめ、きちんと論理的に書いていらっしゃる。その文章の正確さ。ピントがきちっと合っている。普通はもっとセンチメンタルに流れちゃうと思うんですけど、文章を正確に書くという美しさですね。それを感じました。
岡田 ありがとうございます。
──いろんな登場人物が出てきますが、たとえば吉田喜重監督とか小津安二郎さんは繰り返し出てきていろんなエピソードがあるので、具象画としてきちんと描かれていますけれど、谷崎潤一郎先生とか川端康成さんとか一回しか出てこない人はデッサンで簡潔に描かれている。それがいかにもという雰囲気があるんですね。谷崎先生が「お父さんと腕が似てるね」と言う。それをきちんと覚えていらして、作家の観察眼としてお書きになる。ピカソがデッサンを描くような感じなんですけど、素晴らしいなと思いましたね。簡潔なんだけど、非常に細かいところまで神経が行き届いている。書物を読んでいて、本当に知的だなと思ったのは久しぶりなんです。
岡田 本当にありがとうございます。
──もともと書くことに対して真剣な情熱をお持ちだったんだなということがわかります。それから、実にたくさんの本を読んでいらっしゃいますね。その当時はまだそれほど有名でない中村真一郎の『熱愛者』を読んで、映画化を思い立って会いにいく。藤原審爾の『秋津温泉』にしてもそうです。同時代の本をきちんと読んでいらっしゃる。文学的な情熱を非常に強く感じました。大杉栄に私淑し、谷崎潤一郎の弟子になろうとしたお父上(岡田時彦)にしてこの娘ありというのが私の印象です。
岡田 小さいときから本を読むことは好きだったようです。ここには書ききれなかったんですけれども、叔父が東京から新潟の疎開先に帰ってくると、お土産は何も買わずに本屋さんに連れていって、「好きな本を買いなさい。それがお土産だ」と言っていました。叔父の書斎にはいっぱい本があって、勝手にそれを読んでいいと言われていました。当時、オレンジ色の絹の表紙だった志賀直哉全集がありました。『暗夜行路』を読んで泣いたりしていた、おませさんだったんです。
──それは早熟ですね。高校生ぐらいですか。
岡田 中学生です。そのころは遊ぶものが他にございませんでしょ。ラジオもテレビもないし。読むことくらいしか楽しみがなかった。
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