インタビューほか

女優という終わりなき物語を語る

四方田 犬彦 (映画史家・明治学院大学教授)

『女優 岡田茉莉子』 (岡田茉莉子 著)

──戦時中の思い出をお書きになっていますが、ご自分と向き合っている時間がすごく長い方だなという印象を受けました。たとえば、大阪のお祖父さまがちょっとお酒を飲んで気分がよくなって、公園に行くと「お母さんは……」と言いかける。これって志賀直哉がずっとこだわっていた「自分は誰の子供なんだろうか」という『暗夜行路』のテーマですよね。そういう意味では、明治以後の日本文学が「自分の父は誰なのか」ということをテーマにしてきたわけですが、そういう文学的探求の系譜に連なるわけです、この本は。

岡田  そうですね。やっぱり子供時代って大事ですね。 

●若いひとに読んでもらいたい

──これも率直な感想ですが、演技に関しても大変な努力家でいらっしゃいますね。

岡田  それを認めていただけるとすごくうれしいわ。私はあまり努力をせずに、すうっと伸びてきたように思われていますけれども、実はそうじゃないんです(笑)。

──子供のときは無口で引っ込み思案で登校拒否をしていたのが、あるときから豹変する。たとえば、地元の生徒たちにとけ込もうと、越後弁を勉強する。これはもう外国語です。自分の性格を努力してつくっていくのですね。女優になってからは撮影所長のところにどんどん乗り込んで行って、直談判する。痛快な話でした。吉田監督から「気が強い女だという風評でしたよ」と言われたとか(笑)。自己啓発的なところは、この本を読む若いひとに勇気を与えると思います。これからの若い女優さんはこれを読むべきだと思います。

岡田  ぜひ読んでいただきたいと思います。

──先輩の俳優さんと共演したときに、必ずその演技を自分で考えて、この人の演技はどうだ、こういう演技にこう言われたと、きちんと覚えていて、長い間ずうっと考えてこられましたよね。共演した芥川比呂志氏から「映画にはクロース・アップというのがあるけれど、舞台ではね……」と教わる。また、舞台稽古のときに島田正吾が三國連太郎に向かって「これより近くに寄るな」と突然殺気立つ場面がある。

岡田  あのお話ね。これは書いたほうがいいのかどうか私は吉田にきいたんです。そうしたら、「それはあなたらしいから書きなさい」って。

──スリルがありました。

岡田  本当に殺気立っていました。男優おふたりが向き合って。

──映画や演劇の研究をやっている人間からすれば、ある時代の新国劇で育った人の演技と、そのあとの戦後世代の、とりわけ映画人の演技との違いを語る証言になります。貴重な証言だと思います。でも、そこにもいつも学ぶ姿勢というものがある。

岡田  無駄に出演したということはないかもしれないですね。 

女優 岡田茉莉子
岡田 茉莉子・著

定価:3000円(税込) 発売日:2009年10月30日

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