──それは演じるときにも意識されるわけですか?
岡田 はい、多少は。私の左側の顔はすごく寂しい顔だと思うのです。右側はわりと華やかな気がします。ですからメロドラマで寂しい役をやるときは左から撮ってもらうのがいいと私は自分でそう思っていますが、吉田に言わせると、そんなことはないそうです(笑)。カバーの写真はとくに私の好きな左側です。
●戦後日本映画史の貴重な証言として
──感想はまだまだ続くのですけれども(笑)。たとえば吉田喜重監督のことです。吉田喜重という芸術家のたたずまいについては誰も書いたことがないわけです。たとえば、ミケランジェロ・アントニオーニの素振りについてはいろんな人が書いているし、黒澤明の人柄についてもいろんな人が書いています。ところが、吉田喜重については評論家にしても作品を分析するのに精一杯なんです。とにかく目の前のものを理解しようと思って、それだけでフウフウ言ってる。ところが、ここに初めて芸術家としての吉田さんの人となりとか人格、倫理観、芸術に対する自分をすごく厳しく律している点とか、それから逆境にあってものすごくひどい目にあっても冷静に分析して無駄なことは言わないところとか。そのかわり「ど素人!」という野次を飛ばすとか。そんなことは誰も書けなかったんです。つまり、芸術家としての吉田喜重の肖像という意味でも、これは素晴らしいご本だと思います。
岡田 ありがとうございます。
──それにしても、これだけの大きな仕事を終えられて、今はどんなお気持ちですか?
岡田 今は空虚ですね。からっぽです。全部書いてしまったという感じで、出すものは全部出しちゃったという感じです。この間、「文藝春秋」で、書きあげたいまの感想を随筆でくださいと言われたときに、どうしようかと思ったんです。もう何も書けないという感じでした。本当に、一生に一度の大きなお仕事でした。
──他の方には書けないことをお書きになったわけですから。
岡田 記憶を掘り起こす作業も大変でしたけれど、けっこう覚えていますね、いろんなことを強烈に。
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