四肢麻痺の天才科学捜査官リンカーン・ライムを主人公とするシリーズ『ボーン・コレクター』『ウォッチメイカー』などで人気を誇るジェフリー・ディーヴァー氏のノンシリーズ長編『追撃の森』が文春文庫で刊行された。無人の夜の森で、2人の殺し屋の手から逃れんとする2人の女性の死闘を描く緊迫のサスペンスである。
――『追撃の森』はドンデン返し満載の作品ですが、主人公が特殊技能を持っていないのがあなたの小説としては異色ですね。
ディーヴァー(以下JD) ごくふつうの警官を書いてみたかったんです。己の職務を全力で果たし、洞察力も備えてはいるが、特殊技能は持たないような。結果的に『追撃の森』は、純度の高い心理劇になりました。私の関心が、科学捜査や尋問技術といったスキルよりも、登場人物の内面に向いていたんです。人は犯罪にどう立ち向かい、その結果どうなるのかということに。
この作品が国際スリラー作家協会の最優秀長編賞を受賞したのは、そこを評価された結果だと思っています。
――あなたの短編作品に味わいが似ている気もしたのですが。
JD それは的を射ていると思います。短編を書くとき、私はドンデン返しの効果を重視して、それを軸に全体を組み上げていくのですが、『追撃の森』でも同じ書き方をしました。
――『追撃の森』のようなアクション・サスペンスを書くときに、とくに意識していることはありますか。
JD 主人公を敵の「攻撃」に直面させつづけることです。これは物理的な攻撃に限らず、主人公の計画を叩きつぶし、後退を余儀なくさせる予想外の事態でも構いません。そうして緊張状態を積み上げてゆき、「一体これからどうなってしまうんだろう?」という思いが読者の中で膨張しつづけるようにするのが重要です。
――あなたはリンカーン・ライムとキャサリン・ダンスという2つのシリーズを持っていますが、単発の作品も定期的に書いていますね。
JD 読者は慣れ親しんだキャラクターと一緒に長い時間をすごしたいと思うものですから、私はシリーズ物を大事にしてきました。けれど、シリーズ向きでないアイデアが浮かぶこともあります。例えば今回の作品の主人公は、何度も再登場できるタイプの人物ではありません。
――では、あるアイデアを2つのシリーズのうちどちらに振り分けるかを決める基準はあるのでしょうか。
JD そのアイデアに科学的な要素があれば、ライム・シリーズに使います。ライムは科学捜査の専門家で、犯罪を技術によって解決することが大好きだからです。一方でキャサリン・ダンスは「人間」に関心を持っているので、心理学の要素、人間同士のやりとりが鍵となるアイデアを活用することになります。
――今回の作品や『ロードサイド・クロス』など、最近の作品では「家族」をテーマにしているようですね。
JD 小説を書く上で、さまざまな方法で読者の心をつかむことは重要です。ミステリでは「犯罪」について描くことは必須ですが、読者は家族の問題にも、それと同等か、それ以上に心を引きつけられるのではないでしょうか。私はこうした要素のことを「ソープ・オペラ」的側面と呼んでいます。ライム・シリーズでも、ライムとアメリアの関係の行方に強い関心を持っているファンが少なくありません。
――日本では秋にライム・シリーズの『Th e Burning Wire』が刊行されますが、今後の作品のご予定は?
JD いま、『Th e Burning Wire』の次のライム物を書いているところです。ノンシリーズの新作の準備もはじめていますし、3冊目の短編集の作業も開始しました。アメリカではキャサリン・ダンスものの新作『XO』が出たところです。
――『XO』はどんな物語なのですか。
JD 「XO」というのはメールなどでの別れの挨拶で、「あなたにハグとキスを」という意味なんですが、この言葉で締めくくった定型のメールを、女性カントリー歌手がファンに返信したところ、相手が「彼女は僕を愛してるんだ」と思い込んでストーカー化してしまう、というのが冒頭です。そこでキャサリン・ダンスが、歌手の友人として解決に乗り出す、という話です。
この本に合わせて、私が作詞したアルバムも近日中にリリースされます。作品中の歌手のレパートリーを、トレヴァ・ブロムクイストというカントリー歌手が歌うというものです。『XO the Album』というタイトルで、CDでもダウンロードでも購入できるので、こちらもお楽しみください。
追撃の森
発売日:2014年10月30日
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