全国のミステリーファンのみなさま、こんにちは!
「文春ミステリーチャンネル」は、文藝春秋が毎月刊行している書籍・雑誌のなかから「ミステリー(推理小説)」に特化した新作情報を月イチ発信していきます。文春はあまりミステリーのイメージがない出版社かもしれませんが、お読みいただいたらわかるように、実はコアな謎解き作品もかなり出しています。
とくに秋はミステリーの季節ということで、2020年9月は話題作、注目作が目白押し! どの作品から読むか、迷ってしまいますね。どうか読み逃しがありませんように、チェックリストとして活用してください。
【単行本】
□芦沢央『汚れた手をそこで拭かない』
□阿部智里『楽園の烏』
□石田衣良『獣たちのコロシアム』
□陳浩基『網内人』(玉田誠訳)
□ジェフリー・ディーヴァー『ネヴァー・ゲーム』(池田真紀子訳)
いま最も新作が待たれるミステリーの旗手といってよいでしょう。KADOKAWAから『僕の神さま』を出したばかりの芦沢央さんが、短編集『汚れた手をそこで拭かない』を上梓! 収録作のひとつ「埋め合わせ」は、夏休みの当番中、うっかりプールの水を抜いてしまった小学校教師が主人公です。発覚すれば責任問題になる。水道代は税金なので、弁済を求められるかもしれない。どうする――? 主人公の焦燥、煩悶、やがて隠蔽を決意するに至る心の動きは、刑事コロンボの犯人も真っ青のスリルとサスペンスに満ちあふれています。収められた5編は、いずれも人間心理の奥の奥まで描いて、ヒリヒリするような緊張感と驚きをもたらす傑作ぞろい。必読です。
累計150万部突破の「八咫烏(やたがらす)シリーズ」3年ぶりの書き下ろし長編にして、第2部スタートののろしを上げる新作が『楽園の烏』。資産家の養父から山を相続することになったタバコ屋の男の前に次々に現れる山の買い取り希望者。やがて謎の女に導かれて山に入った男は、信じがたい光景を目の当たりに……。本書が傑作ファンタジーであるのはもちろんですが、張り巡らされた謎と伏線、強烈なサプライズはミステリーファンをも虜にすること請け合い! シリーズ未読の方にも強烈におすすめします。「八咫烏」が気になっていた人は、この機会にぜひ!
お待たせしました! 「池袋ウエストゲートパークシリーズ」の新作『獣たちのコロシアム』の登場です。今回の敵は、児童虐待マニア。闇ウェブの深奥で共有される陰惨な虐待動画の描写には戦慄を禁じえません。子どもたちを地獄から救うべく立ち上がるマコトとタカシ。驚くべき「獣たち」の正体とは? 10月よりアニメ放送もスタートする「IWGP」から、ますます目が離せません。
同じくネットに潜む「悪意」を追跡した傑作が、陳浩基さん待望の新著『網内人』です。飛び降り自殺した中学生の妹シウマン。彼女を死に追いやったのは、ネット民たちによる悪意に満ちたバッシングでした。妹を中傷した元凶の人物「邵徳平の甥」とは何者なのか? シウマンの姉アイはネット専門の凄腕探偵に依頼し「敵」の正体を探っていきます。陳浩基さんといえば香港発の本格警察小説『13・67』で各種ミステリーベスト10を総なめにした華文ミステリー(中国語圏のミステリー)最高峰の書き手。ちょうど今月、文庫化された『13・67』とともに、香港のいまを体感できるミステリーを味わってみてください。
翻訳ミステリー秋のおなじみといえばディーヴァーにとどめをさすでしょう。『ネヴァー・ゲーム』は、リンカーン・ライム、キャサリン・ダンスに次ぐ第3の名探偵コルター・ショウが登場する新シリーズ。ショウは失踪者を見つけだすプロで、行方不明者や逃亡犯に懸賞金がかけられると調査に着手する私立探偵です。敵はシリコンヴァレーに暗躍する連続誘拐魔。死のゲームに巻き込まれた女子大生を救い出せるかどうか、ショウの活躍に注目! 「どんでん返しの魔術師」らしいサプライズの連続は本書でも健在です。
【文春文庫】
□明日乃『お局美智 極秘調査は有給休暇で』
□吉永南央『黄色い実』
□水生大海『熱望』
□石田衣良『七つの試練』
□阿部智里『烏百花 蛍の章』
□陳浩基『13・67』上下(天野健太郎訳)
先月に続いて強烈におすすめしたいのが「お局美智シリーズ」の第2作『極秘調査は有給休暇で』。社内に張り巡らされた盗聴システムを使い、トラブルを未然に解決せよ――先代社長の密命を受け、社の平穏のためひそかに奮闘する経理OL・佐久間美智に、ある日、突然の異動命令が。秘密の音声ファイルをチェックすると、単なる派閥争いをこえた陰謀の気配が……。お局美智は絶体絶命のピンチを乗り切れるか? 「週刊文春」小説大賞受賞の傑作シリーズをどうか読み逃しなく!
累計65万部、大好評「紅雲町珈琲屋こよみシリーズ」第7弾となる『黄色い実』が文庫で登場です。お草さんが営む「小蔵屋」で働く店員・森野久実にボーイフレンドが。男っ気のなかった久実についに春が!? と浮き立つ小蔵屋に、突如、深刻な事件が出来します。町内の旅行会社で働く元アイドルの女性が、店の敷地内で暴行を受けたというのです。
『ランチ合コン探偵』や『ひよっこ社労士のヒナコ』が人気の水生さん。『熱望』は打って変わって、現実の暗い側面に筆をのばした社会派ミステリーといえるでしょう。31歳独身、派遣OLとして働く春菜は、男に騙され、仕事も切られてしまいます。兄夫婦が暮らす実家に頼ることもできず、途方に暮れた彼女は、ふとしたきっかけから、「騙される側」ではなく「騙す側」になろうと決意するのです。「みんな、わたしをばかにして。ばかにして」「わたしはただ、幸せになりたかっただけなのに」――主人公の叫びが読む者の胸をえぐる強烈な犯罪小説です。
「IWGPシリーズ」第14作『七つの試練』はネットに蔓延する「デスゲーム」を描きます。提示された課題をクリアすると「いいね」をもらえる他愛ない遊びは、しだいに命をかけた危険な遊戯へとエスカレート。若者を危険にさらす「管理人」の正体とは? マコトたちの活躍を存分に楽しめる1冊です。
単行本『楽園の烏』で新章の幕が開いた「八咫烏シリーズ」。その外伝となる短編集『烏百花 蛍の章』が文庫化されました。さまざまな「恋」や「青春」を描く鮮烈な6編ですが、緻密な構成、意外性あふれる展開は、『楽園の烏』同様、ミステリーファンにも楽しめる内容になっています。
単行本の欄でもお知らせしたように、陳浩基さんの新著『網内人』刊行に合わせ、華文ミステリーの到達点『13・67』がついに文庫化です。2013年から1967年にかけて名刑事クワンの警察人生を遡りながら香港社会の変化を辿っていく本格ミステリー。中国返還後、市民と権力のあいだで揺れ動く香港警察のアイデンティティを問う社会派ミステリーとしても、いま、まさに読まれるべき大傑作です。文庫の帯に、綾辻行人さん、横山秀夫さんお2人の賛辞があるように、強烈な謎解きと、リアルな警察小説と、両方の面白さを最大限に堪能できる希有な1作といえるでしょう。
以上11作、駆け足で紹介しました。
ミステリーは私たちの大切な友達です。本欄では、毎月、ミステリーの「いま」を感じられる作品をどんどんご紹介していきます! 乞うご期待!
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9月26日発売の芦沢央短編集『汚れた手をそこで拭かない』から1篇をnoteにて先行公開!
2020.08.28ニュース -
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2021.10.08ニュース -
復讐の転落人生をなぜかポジティブに生きる、コミカルな主人公
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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