書評

年老いた母と娘で織り上げた、稀有な物語。一〇〇年前、日本はこんなに「豊か」だった――

文: 中島 京子 (作家)

『一〇〇年前の女の子』 (船曳由美 著)

 里帰りしてテイを生んだ母は、赤ん坊のテイだけを婚家に送り届け、自分は二度と戻らなかった。祖母であるヤスおばあさんがもらい乳して育てたテイだったが、父が新しいお嫁さんをもらった際に、先妻の子であるテイに寺崎の家を継がせないこと、テイを他家に養女に出すことという厳しい条件を出されてしまう。三歳から、方々へお試しのように預けられた挙句に、おカクおっ母さんのところに養女に出されたのは五歳のときだった。

 五歳といえば、まだ、なにかといえばお母さんにくっついてしまうような年頃なのに、テイはびっくりするほど働かされる。着物をシラミだらけにして、もくもくと働くテイは、ほんとうにかわいそうだ。二年間を経て、「男子のいない家の長女は他家に籍は移せない」という、こちらもいまの常識では驚くような前近代的な法律のおかげで、テイは高松の家に帰れることになる。そのときの、一瞬も振り向かずに走って走って、ヤスおばあさんに飛びつくまでのテイの姿を思い浮かべると、自然に涙が出てきてしまう。

 テイには性格がある。意志が強く、独立独歩で、ただただかわいいとは言い難いが個性がある。それが彼女の魅力だ。

 学校の壁にカエルが模様をつけてしまったときも、奉公に来ていた奥州っ子が逃げ出すときに握り飯を作ってやったときも、テイにははっきりした自分の意志がある。ただの優等生でもなければ、ただのかわいそうな女の子でもない。勉強はよくできて全甲は誇りだが、総代として名前を呼ばれなくても、ヤスおばあさんほどには憤激しない。でも、妹だけが用意してもらった雛人形を見ると悔しくて妬ましい。妬み、という自分の中の醜い感情を持て余して、テイは「ちょっとだけ泣いてみ」る。テイの感情は、一つ一つ繊細だ。

『一〇〇年前の女の子』は、その繊細で意志が強く、頭のいい女の子の成長記だ。やがて彼女がたどることになる道程も、ああ、あのときのあの子がこうなったか、という感慨とともに、読者の胸にすんなりと記憶されることになる。

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一〇〇年前の女の子
船曳由美・著

定価:本体780円+税 発売日:2016年07月08日

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