原作との衝撃の出会いから、出演立候補まで。 映画『悼む人』にかけた熱い想いを語り尽くす!
天童 映画『悼む人』の関係者試写を拝見した後に申し上げましたが、「天童荒太賞」というものがあれば、石田さんに差し上げたい。映画自体が素晴らしかったことはもちろん、石田さんの演技はご自身の存在を賭けた真に迫るもので、スクリーンの中で奈義倖世を生きるということを丁寧に実践されていました。そのことに心から敬意を表したかったんです。
石田 そのお言葉が最高のご褒美ですよ。そう言っていただけて本当に嬉しかったです。
天童 実は、石田さんご自身が『悼む人』をお読みになって、「倖世を演じたい」というオファーのお手紙を送って下さったんですよね。
石田 はい。「静人のように、見ず知らずの死者を悼む青年が実在したら?」と想像が膨らんで、吸い込まれるように読みきってしまいました。映像がありありと眼に浮かぶ感じで、「これは映像化されるに違いない!」と思ったんです。それで、矢も盾もたまらず書いた手紙を天童さんにお送りしたのですが、振り返ってみると、かなり向こう見ずですね。
天童 結果として石田さんのその積極性が映画全体に素晴らしい影響をもたらしてくれたわけですから。ときには向こう見ずな冒険も大事です。
石田 そうですね。演じたい役に出会ったときに立候補する無鉄砲さを持っていてよかったです。正直、選んでいただけるとは期待していなかったし、立候補しなければ何も始まらなかったと思います。
天童 倖世は、夫である甲水朔也を、彼への愛を利用されるかたちで殺し、彼の亡霊に憑かれている。しかも、それは狂気ではなく、正気です。そういう特異な女性のどこに惹かれたんですか?
石田 彼女の人生があまりに壮絶で、私の想像の埒外にあったということが大きいです。けれど、一人の女性として共感できる部分もあって、彼女のような境遇で育ったら、同じように人を殺してしまうかもしれない。内面がとても複雑な女性で、これ以上ない難役ですよね。役作りといっても髪の毛を無造作に伸ばすことくらいで、やっぱり現場に行ってそこで感じたものを体現するしかない。とても勇気の要る挑戦でしたが、そういう経験をせずにこの先を生きて行くのが嫌だったんです。
天童 それは女優としての野心みたいなものなのでしょうか。
石田 ある意味そうです。