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ときには向こう見ずな冒険も<br />天童荒太×石田ゆり子

ときには向こう見ずな冒険も
天童荒太×石田ゆり子

「本の話」編集部

『悼む人』 (天童荒太 著)

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説

天童 なにか唱えるんですか? 「私は倖世だ」とか。

石田 そうではなくて、演じる人物に想いを寄せ続けるうちに、どこかで憑依するんです。

天童 普段の演技はそれほど憑依的にはやらない?

石田 そうですね。もう少し軽い役がほとんどですし、多少計算しながら演じますが、倖世の場合はそれが通用しない。ちょっとでも作り物めいた表情をしたら見抜かれてしまうので、あざといことは一切やめようと思って。共演した高良健吾くんも静人そのものの姿で現場にいたので、演じるというか、静人と倖世の人生をそれぞれが生きたという感じがしますね。

天童 撮影で静人と一緒に旅して、石田さんの眼には彼がどんな青年に映りましたか?

石田 高良くんが演じる静人は奇妙なんだけれど、清らかで、美しくて、天使のようでした。一方で、大きなリュックを背負って歩く姿はむしろ男らしかったですし、当たり前のことではあるけれど、「静人も普通の男の人なんだな」と実感しました。

天童 そんなこと言ったら、石田さんに気に入られたくて、大きなリュックを背負った男が急増しますよ(笑)。

石田 そうでしょうか?(笑) 天童さんは、静人というキャラクターをどうやって作り上げたのですか?

天童 ある日、天啓のように「無力だけど、人々の死を悼んで旅する人」という言葉が降ってきたんです。当時は9・11とそれに続く10・7のアフガン攻撃の直後でした。多くの人の死が数字に置き換えられ、さらに多くの人の命を奪いにゆくことが是認される世界に、大きな無力感を感じていたので、「この人を追いかけてみたい!」という強い衝動に駆られたのが原点です。まずは事件や事故のあった場所を訪れて、死者を思いやるかたちで悼んでみようとしたのですが、死を自分の中に入れるという行為が辛くて、辛くて……。これでは亡くなった人を等しく悼み続けることはできない。何度かそういう経験をして、日々誰かの死を悼む静人の日記も3年間書き続けることによって、だんだん分かってきたんです。亡くなった人が「誰に愛され、誰を愛し、どんなことで感謝されたか」という3つを胸に刻む悼み方とか。そういう悼みの旅をするのであれば、決して速くは歩けないこととか。19歳のときにリュックを背負って一人旅をした経験があったので、その時の感覚も活きています。

石田 旅しながら何をされていたんですか?

天童 青臭い「自分探しの旅」のつもりはなかったけど、若さゆえの甘っちょろさが嫌で、自分を見つめ直したい、鍛えたいという願望はありました。あと、映画監督になるという夢があったので、8ミリカメラを持って広島へ原爆記念日に撮影しに行ったりもしていました。そういう記憶が積み重なって、『悼む人』に集約していったのかなと思います。

石田 そうだったのですね。

写真◎杉山秀樹


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