熊切監督との出会い
桜庭 『私の男』の撮影の時は、ちょうど十八歳ですか?
二階堂 はい、十八歳でした。
桜庭 この映画を撮影する時に、二階堂さんは年齢的にもぴったりだったんですよね。
二階堂 運命的だったと思いますね。自分が好きな原作であったということと、熊切監督と一緒に仕事ができたことが嬉しくて。この仕事に疑問を持っていた時期だった十六歳の時に、オーディションで監督に初めてお会いして、「この人と仕事がどうしてもしたい、この人の現場に行きたい」と直感的に思ったんです。残念ながら、その仕事は成立しなかったんですけれど、オーディションの間、ずっと監督と目が合っていて、通じ合った感じがしました。その時、監督は『私の男』を映画化したいと考えていて、私を「花だ」と思ってくださったそうです。二年くらい後に、『私の男』出演の話をいただいて、ポロッと泣いたことを覚えています。本当に特別な作品で、香盤表とかも全部とってあるんです。原作があって、映画化する、表現の方法によって二つの作品に分かれるわけですけど、その二つがちゃんとリンクしている。しかも、そのリンクしたものが桜庭先生の本ですから。私は幸せ者だな、と思いました。
桜庭 ありがとうございます。『私の男』が出た直後から、映画化したいという話は来ていたのですが、なんだか進まなくて。熊切さんが監督することになって、ちょうど二階堂さんが十八歳になったというのは、すごくタイミングがよくて、すぐに映画化しなくてよかったと思います。私が、熊切さんの作品を最初に観たのは、「ぴあフィルムフェスティバル」だったんですよ。
二階堂 あ、『鬼畜大宴会』ですね。
桜庭 そう。同世代で映画学校に行っている人も多くて。賞を取って、お金を出してもらって、撮って、デビューした人たちがいるのをすごいな、と思っていたので。熊切さんの作品の中では、『揮発性の女』がいちばん好きです。絶望的な状態がずっと続いている中で、幸福は瞬間、瞬間にあるということをよく撮られているな、と。絶望の中に、瞬間の幸福がパンッと入ってくるのがすごく好きです。『私の男』の舞台である北海道出身の熊切さんが監督するというお話を聞いた時に、自然にすっと入ってきたんですよ。
二階堂 原作における花と淳悟の世界観を大事にしてよかったと思います。熊切監督がそこに、ご自身の作品としての色付けをされて。そして、淳悟を演じたのが浅野さんだったことも、私の中で本当に大きかった。今まで出したこともないような声や表情を引き出してくださったので。小説から感じられた二人の肉体のぶつかりあいを映画でも表現できて本当によかったです。私にとって特別な作品になりました。この先、自分がどういうふうに生きていくのか、まだ分からないけれど、『私の男』という作品が自分のキャリアに入ってきたことがとても幸せです。
桜庭 いえいえ、ありがとうございました。
『私の男』6月14日より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
[出演]浅野忠信/二階堂ふみ/高良健吾/藤竜也 [監督]熊切和嘉 [配給]日活