書評

ハードボイルドの極み
孤独を愛する“還暦探偵”は進化する

文: 香山 二三郎 (コラムニスト)

『探偵・竹花 孤独の絆』 (藤田宜永 著)

 ということで、冒頭の「サンライズ・サンセット」だが、竹花はファミレスでひょんなことから知り合った依頼人・米倉から、疎遠になっている娘を捜し出す仕事を引き受ける。二週間ほどで娘・美穂の居場所や彼女の夫が二ヶ月前に自殺していることが判明するが、その後彼女から、くだんの依頼人は米倉ではなく、自殺した夫の前に結婚していた相手の父親・谷原周一郎だったと知らされる。谷原は米倉の幼馴染で、嫁だった美穂との関係も良好だったが、その後彼女たちは離婚、美穂と米倉の関係も実際疎遠になっていた。谷原は何とか父娘の関係を修復させようとするが、美穂は谷原の息子の同級生について唐突に訊ねてくるなどどこか態度がおかしかった。実は彼女はカメラマンであるその同級生の男・森崎から強請られていたのだ。竹花は森崎との交渉役を依頼されるが……。

 米倉家と谷原家の関係がちょっと複雑だが、それというのもそれぞれの息子と娘が結婚したものの、いったんは別れてしまっているから。今は別々の家族になっているのだが、嫁恋しさから、谷原は再び両家を密接なものにしようとする。そのモチベーションは何かというと、寂しさである。年を取り、配偶者を失い、寂しい身の上になったがゆえに、かつては仲の良かった嫁のことが案じられて仕方がない。すべては孤独のなせるわざである。

 むろんそこから、竹花自身の生きかたも逆照射される。竹花もすでに還暦直前、世間的には老人扱いされる年齢だが、カラダはまだまだ元気だし、「老いが迫ってきても不安を感じたことはない」。それは「とりとめもない灰色の日常に、依頼人が赤い色を投げ込んでくる。その赤い色のおかげで、竹花という男にカツが入る」からである。本書のタイトルは収録作の作品名ではなく、各々の通奏低音というか、通しテーマから取られている。本篇だけでも、それはひしひしと伝わってこよう。

 続く「等身大の恋」は、愛車の面倒を見てもらっている自動車修理工場主・古島の紹介で、外科医の新妻・進藤由美子から依頼を受ける。結婚式の二次会会場の入り口にあった自分たちの等身大パネルを盗んだ犯人を探し出してほしいという。もっとも容疑者はすでに挙がっているとのことで、竹花は指摘を受けた個人運送業者の船山裕一郎について調べ始める。車で出かけた船山の後をつけた竹花は、行先のマンションで依頼人の夫が女と一緒にいるところを目撃、船山は彼らと何か言い争っていたが……。

 等身大パネルの窃盗犯を追うとはちょっと毛色の変わった話だが、事件の構図はわかりやすい。ただそこに男女の愛憎が絡んでくる。しかも一〇代少年の純愛と、酸いも甘いも噛み分けたオトナの恋愛が。孤独な少年の潔癖な想いと、男のわがままを許容する女の想い。こちらは対照的な恋愛演出が際立った一篇だ。なお竹花の格闘シーンも登場するが、さすがに本格的な取っ組み合いはきつそうな感じ。

「晩節壮快」は、竹花が大田区の介護付き有料老人ホームを訪れるところから始まる。入居者のひとりが財布から金を取られたというのだ。板家と重宗という仲のいいふたりが容疑者だと訴えられるが、両名とも三日前に施設から姿を消していた。入居者の話では、重宗は夫婦同然の仲だった馬淵弘恵の退去が原因ではないかという。竹花は弘恵に会いに、彼女が世話になっている姉・見谷佐和子の家に向かうが、近所の碑文谷公園でくだんのふたりを発見。竹花とふたりは、見谷佐和子の家で弘恵ともども顔を合わせるが、そこでふたりが姿を消した意外な理由を明かされる。

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探偵・竹花 孤独の絆藤田宜永

定価:本体610円+税発売日:2015年08月04日


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