
・震災の映像見れば指しゃぶりいよよ激しき七つの心
余震、東京電力福島第一原発事故による放射能汚染による不安は、静まるどころか、政府の曖昧な発表のために広がるばかりだった。
・まだ恋も知らぬ我が子と思うとき「直ちには」とは意味なき言葉
そして、ついに俵さんは、息子を連れて2人で仙台を離れる決心をする。
・子を連れて西へ西へと逃げてゆく愚かな母と言うならば言え
そうしてたどり着いたのが、友人の住む沖縄の離島、石垣島であった。見るもの、聞くこと驚くことばかりだ。
・オオカミのごとき台風襲いきて子豚マンションのドアをたたけり
はずむ心、今という瞬間をまるごと言葉にして歌うさまは、まるで恋に胸をときめかす第一歌集「サラダ記念日」と似ている。ただ似て非なることは、島の自然を楽しみ、遊び興じ、日々、作者とともに胸をはずませる息子という存在である。
・子は眠るカンムリワシを見たことを今日一日の勲章として
・ぷふぷふと頬ふくらます子に聞けば釣られて焦るフグのものまね
そして、物語の主人公になったように、島で冒険に満ちた毎日を楽しむ息子の言葉が歌になり、表題となった。
・「オレが今マリオなんだよ」島に来て子はゲーム機に触れなくなりぬ
本書のあとがきも、とてもいい。すっかりゲーム遊びから遠ざかった、もうすぐ10歳になる息子が夜、「ワイファイって何?」と聞いてきた時のエピソードだ。俵さんが「無線でインターネットにつながる方法だよ。目に見える線でつながっているのは、有線」。そう答えると、隣の布団から小さな手が伸びてきたという。
「今日は有線でお願いします」
・汚染米を「おせんべい」と誤読して屈託のなき子は秋のなか
・オスプレイ空に飛び交い地上ではオスがレイプと漫談つづく
明るい作品ばかりではない。たとえ南の島に行っても、そこには現代の日本の縮図はついてくる。それを見詰めつつも、悲嘆ばかりはしていない。
・教育の半分は「育」日当たりのよきベランダに鉢を並べる
作者はかつて「万智ちゃんを先生と呼ぶ子らがいて神奈川県立橋本高校」という元先生だ。よいものを言葉で育む。その心の強さは変わらないのだ。
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