魔法使いが、あこがれだった。
子どもの頃、見ていたテレビアニメに登場する魔法使いは、どんな問題も魔法で解決してくれた。すっかり魅せられたわたしは『魔法使いになろう』と心に決め、小学三年か四年のある日『しょうらいの夢』という作文に魔法使いへの思いの丈を書き綴り、先生に提出した。
数日後、返却された作文には、先生のコメントが赤いペンで書き込まれた。正確な文章は忘れてしまったが、こんな内容だった。
「魔法使いなんて、夢のようなことを書いてはいけない」
「夢を書けと言ったのに、ほんとうの夢を書いたら否定されるのか!」と今なら反論したいところだが、先生の気持ちも理解できなくもない。もし自分が先生だったとして「魔法使いになりたい」と真剣に訴えてくる生徒がいたとしたら、どう答えるだろう。
「魔法使いになる為には……まず勉強しなくちゃね」と指導したところで、いつかは本当のことを知るときがくる。先生のように、クールにはねのけてあげるのも一種の愛情かもしれない。
ともかくわたしの魔法使いへの熱い気持ちは、このことによって砕け散った。
考えてみれば、子どもが魔法使いに憧れるのは当たり前だ。泣いて欲求を満たした幼児期を過ぎた後、ひたすら家や学校のルールに従って過ごし、たまにストレス解消したくとも、子どもにはそんな手段もない。
そこに現れた希望が魔法使いだ! いたいけな子どもからささやかな魔法使いの夢を取り上げるなんて……大人になっても思い出し腹立ちしてしまうわたしを許してほしい。
前段が長くなった。個人的な魔法使いへの気持ちを記したところで、本書である。
長く美しい栗色の髪を顔の左右で三つ編みにした少女、濃紺のワンピースに純白のエプロン、右手には長い竹箒。ザ・メイドスタイル。名前はマリィ。住まいはないらしく、住み込みの家政婦としてあちこちの家で働いている。マリィについてはいろいろと謎が多いが、ひとまず置いておく。
本書はミステリである。キャラが際立った人が次々に出てくるので、軽い気持ちでページをめくってしまうが、じっくり読めば「ん?」と引っかかるはずが、テンポの良さに油断してしまう。気づけば物語のかごの中に閉じ込められている。
本書に収められたのは、四つの中編。どれも犯罪が起こる場面から始まる、いわゆる倒叙もの。つまり犯人も動機も最初から読者には明かされている。犯人の犯行を証明するのが、美貌と美脚の警部・「八王子署の椿姫」こと椿木綾乃警部と、その部下の小山田聡介刑事のコンビ。
そしてマリィである。マリィの行く先々で殺人事件が起きる。別に魔法がそうさせるわけではなく、事件に引き寄せられる体質? なのかも。
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