『魔法使いとさかさまの部屋』
タイトルにあるとおり、殺人現場となった部屋の多くの物が逆さまに置かれている。あまりに奇妙なことに目が行くと、小さな変化に気づかない。そんなメッセージが込められている……か、どうかはわからないけど、わたしが一番好きな場面は小山田刑事の部下の若杉刑事が、椿姫に無理矢理連れて行かれるところ。
「そんな彼は、まるでドナドナの仔牛のように悲しい目をしながら、聡介を見詰めている」
ドナドナと言えば、小学校の音楽の時間を思い出す。哀愁帯びたメロディ、売られていく仔牛の潤んだ目……あれが若杉君の目か。物語の本筋と関係ないところで、思わず立ち止まってしまった。
『魔法使いと失くしたボタン』
いつも思うのだけど、どうして犯人は殺人現場に落とし物をしていくのか! この犯人もボタン落としていくし……みんなうっかりしすぎ。わたしだったらボタンのない服を着ていくのに……個人的意見はさておき、犯人のモノとおぼしきボタンを殺人現場付近で見つけた小山田刑事だが、犯人は見事に切り抜ける。
この犯人の家に勤めている家政婦がマリィ。偶然にしちゃできすぎだろ、と突っ込みたいところだが「なにしろ市原悦子の昔から、家政婦といえば極秘情報の発信源と相場が決まっている」
そう、家政婦は家の秘密を何でも知っているのだ。なるほど、市原悦子はマリィのモデル……か、どうかは知らないけど。
『魔法使いと二つの署名』
偽装された遺書が、偽物と見破れるかどうか。マリィは魔法の力で犯人に自白させることは出来るけど、犯行の証拠はつかめない。
魔法は重いモノを移動させたり、空を飛んだり出来るけど、魔法の力はそこまでなのだ。うん、何となくマリィの魔法がわかってきた。
最初ミステリに魔法使いを一人加えると、あっという間に事件を解決させてしまうのでは、と心配したけど、そううまくはいかない。マリィの魔法に頼ったところで、マリィ自身も魔法をコントロールしきれないのだし、魔法はいきなり犯人を当てられるが、推理には向いていないのだ。
結果的に犯人は自ら犯行を証明してしまう。小山田刑事が意外な鋭さを見せた。
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『男女最終戦争』石田衣良・著
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