特集

トランプ大統領で世界はどうなる? 日本はどうする?

『新・リーダー論 大格差時代のインテリジェンス』 (池上彰・佐藤優 著)

トランプ大統領の誕生で世界はどう変わるのか? 10月刊の最新著『新・リーダー論――大格差時代のインテリジェンス』(文春新書)で、池上彰氏と佐藤優氏は、トランプ大統領誕生の可能性と、そこから予想される事態を論じている。ここに議論の一部を紹介する。

トランプ大統領で世界はどうなる?

佐藤 トランプが大統領になれば、おそらくメキシコ、カナダ、ブラジルの三国との関係は緊張するでしょう。「南北アメリカ大陸以外には、アメリカは干渉しない」というのがモンロー主義です。南北アメリカについては、「俺の縄張りだから言うことを聞け」というわけです。状況によっては、ベネズエラに難癖をつけて、「石油をよこせ」と攻めて行く可能性もある。要するに、モンロー主義とは、アメリカの視線の方向が変わることを意味します。ヨーロッパにも、アジア太平洋にも、視線は向かず、南北アメリカ大陸の内側に向かうのです。

 ただし、トランプが大統領になれば、米中関係、米露関係は、劇的に改善するでしょう。「金持ち喧嘩せず」「強い者どうし喧嘩せず」です。

池上 とくにトランプとプーチンは相思相愛の関係にあります。

 二〇一五年一二月の年次記者会見で、プーチン大統領は、トランプについて「大統領選で完全に先頭を走っている」「非常に輝かしく、才能ある人物であることに何の疑いもない」と述べています。他の候補がロシアの孤立化政策を訴えるのに対して、トランプが米露関係の強化を主張していたからです。

 このプーチンの発言を受け、トランプも、「国内外で高く尊敬されている人物からほめられるのは非常に光栄なことだ」と、エールを互いに交換しました。

 その後、トランプの過激な放言を受けて、プーチンは「彼は『派手な』人物だと言っただけだ」と発言し、トランプも、「プーチンに会ったことはない。プーチンがどんな人かも知らない」「彼は私のことを一度褒めてくれた。私のことを天才だと言ったんだ。『どうもありがとう』と私は新聞の紙上で礼を言って、それっきりだ。プーチンには会ったこともない」と、互いに多少軌道修正を図っていますが、両者の波長が合っていることは間違いありません。

 とくに中東情勢に関して、両者の関係が大きな変化をもたらす可能性があります。

 トランプは、二〇一五年九月、CNNのテレビ番組で、「ロシアはISISを排除したいと考えており、われわれもそうだ。ならばロシアの好きにさせればいい。ISISを排除させるのだ。気にすることなどない」と発言しています。シリア内戦への米国の深入りを避けるとともに、ロシアによる主導権の掌握を許容すべきだという主張です。この点は、モンロー主義として一貫しています。

 中東に関してトランプは、「中立の立場をとる」と表明しています。要するに、「イスラエルへの肩入れはしない」と言っているのです。

佐藤 そうなると、かなり劇的な変化が起きるかもしれません。イスラエル、イラン、トルコの関係が劇的に改善する、という可能性です。要するに、これは、「アラブ」の混乱を「非アラブ」によって抑え込む、という発想ですが、十分あり得ます。この構図の中で、イスラエルとロシアの関係も劇的に改善する。

池上 すでに二〇一六年四月と六月にはイスラエルのネタニヤフ首相がロシアを訪問してプーチン大統領と会談しています。

佐藤 ウクライナ問題をきっかけとした対露制裁に、イスラエルも、アメリカから「対露制裁の仲間に入れ」と言われてきましたが、「うちは小さな国なんで、周りの国とのことで手一杯なんで、そういうことには巻き込まないでください」と逃げ回っていました。従来ほどに「アメリカの後ろ盾」を当てにできないとすれば、イスラエルにとってロシアとの関係はいっそう重要になります。

(文春新書『新・リーダー論――大格差時代のインテリジェンス』より抜粋)

池上彰(いけがみ・あきら)

池上彰

1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。記者やキャスターを歴任し、2005年に退職。以後、フリージャーナリストとして幅広く活動。名城大学教授。著書に『伝える力』『世界を変えた10冊の本』『池上彰のニュースから未来が見える』など多数。


佐藤優(さとう・まさる)

佐藤優

1960年東京都生まれ。作家・元外務省主任分析官。同志社大学大学院神学研究科修了。著書に『国家の罠』『自壊する帝国』『交渉術』『私のマルクス』『読書の技法』『同志社大学神学部』『人間の叡智』『人に強くなる極意』『サバイバル宗教論』『宗教改革の物語』など多数。

新・リーダー論池上彰 佐藤優

定価:本体830円+税発売日:2016年10月20日


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