2015.01.31 書評

西洋の騎士に勝った日本鎧

文: 東郷 隆

『本朝甲冑奇談』 (東郷隆 著)

 近頃は、日本の武道家が頻繁に海外へ出かけているが、私の知人もアメリカやロシアに幾つか道場を設けて、彼の地の人々に日本型の武術を教えている。

 その武道家がある時、しきりにぼやいていた。

「ロスの道場に困った奴がいてね」

 聞けば、そ奴は弟子ではないが道場に出入りする欧米型の格闘家で、西洋甲冑のマニアだという。

 「そいつが言うには……」

 西洋の騎士は世界最強で、日本の侍もかなうわけがない、と常に唱えている。あげく、道場に飾ってあった日本鎧を指して、

「ああいう華奢(スリム)な防具は、騎士の鎧に到底かなうまい。一度、トーナメントか叩き合いで、どちらが強いか証明しようではないか、と会うたびに言うんだよ。もう、まいっちゃってね」

 トーナメントというのは、長槍で相手を馬上から叩き落す槍仕合いのことだ。欧米では昔から模擬戦闘(リエナクトメント)と称する遊びがあり、アメリカの西海岸でも年に何度か、騎士道に憬れる連中が、自前の甲冑を抱えてひとつところに集まる。一種のコスプレ・イベントだが、これが、いざ合戦ゴッコとなると無慮千人近い大軍勢が、ぶ厚い防具をまとい、金属の棒や鎖で実際に叩きっこをする。私もネットの画像で何度か見たことがあるが、こりゃあ、かなりの怪我人が出るだろうと心配になるような情況が毎回展開される。

「甲冑には、それぞれの国での異なる成立過程がある。西洋の鎧も少しづつ防禦法を発達させて、あのロボットみたいな形になった。それを考慮せず、単純に強い弱いなどと比較するのは愚かだ」

 というような意味の言葉を、私は彼に言った。

 その後、どうなったかといえば、武道家は騎士道マニアの挑戦を受けて、日本鎧を着たという。結果は、

「勝ったよ」

 さしてうれしくもない、といった表情で彼は答えたものだ。

 「思った通り、相手の動きは鈍重でね。途中、何度かこちらが危いということもあったが、軽く後を取ったら、すぐに引き倒せた。向うの甲冑は視界も悪いし、三本勝負で三本取った」

 そんなことだろうと思った、と私は答えた。

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本朝甲冑奇談
東郷隆・著

定価:本体590円+税 発売日:2015年01月05日

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