- 2018.04.04
- 書評
“2018年本屋大賞発掘部門「超発掘本!」” 多重文体+B級事件。折原一の作風を決定づけた記念碑的傑作が復活!
文:小池 啓介 (書評ライター)
『異人たちの館』 (折原一 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
『異人たちの館』を経た折原一の活動は、本書を構成する部材をとりだして、それぞれをより洗練、先鋭化させていくことになる。
お家芸となった多重文体に関していえば、翌年にはこの技法を活かした『沈黙の教室』(現・ハヤカワ文庫JA)で日本推理作家協会賞を受賞した。また、同じ路線を極めたのが山岳ミステリー『遭難者』(一九九七年。現・文春文庫)で、かつての実業之日本社の単行本版と角川文庫版は、箱のなかに追悼集と別冊(前者が問題編で後者が解決編)が二分冊となって入った非常に手の込んだ体裁となっている。和久峻三『雨月荘殺人事件』やデニス・ホイートリーの「捜査ファイル」シリーズに倣った“箱入り本”なのだ。
短編の腕前は、「きもだめし」「Mの犯罪」のふたつの作中作も収録された『耳すます部屋』(二〇〇〇年。現・講談社文庫)などにまとまり、片方の「きもだめし」に内包されたジュブナイル・ミステリーの要素は『クラスルーム』(二〇〇八年。現・講談社文庫)に結実した。邸宅やアパートの一室などの閉鎖空間への執着は、集合住宅での事件の数々を描いた連作ミステリー『グランドマンション』(二〇一三年。現・光文社文庫)を書かせ、同じく、閉ざされた森のイメージは、本作にも登場する富士の樹海を舞台にした二〇〇二年の『樹海伝説』(祥伝社文庫)からはじまる一連の《樹海》シリーズにつながっていく。
また、ホラー小説を意識したアプローチは、二〇〇一年に青沼静也の別名義での『チェーンレター』(現・角川ホラー文庫。名義は折原一に変更)刊行に至る。
なによりも「作家活動の主軸」と先に述べたB級事件をモチーフにする作品は、小野悦男事件をベースにした『冤罪者』(一九九七年。現・文春文庫)、東電OL事件がモデルとなった『追悼者』(二〇一〇年。現・文春文庫)など数多く書かれ、確固たるシリーズものではないものの大半が「~者」という共通したタイトルをもっていることもあって、国産ミステリー史において一際異彩を放っている。
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