現在放送中の「花咲慎一郎」シリーズをはじめ、ドラマ化作品も多い柴田さんは今年でデビュー20年。新刊は、高原のカフェが舞台だ。
物語の主人公は奈穂。女性誌の副編集長を務め十分な収入も得ていたが、結婚10年になる夫からのモラハラに心身ともに疲弊し、離婚を決意。仕事も辞め、東京から信州の高原に移り、「Son de vent(ソンデュヴァン)」(風の音)と名付けたカフェをひとりで始める。
「“風”は当初から作品のイメージにありました。生活に窒息しかけていた奈穂には風が必要だったんです」
自然に恵まれた百合が原高原は、食材も豊か。朝届いた地産の野菜やベーコン、乳製品を使って、奈穂はその日のランチメニューを組み立てる。焼いたときの脂をあえて切らず、芥子を少しのせただけのベーコンサンド、高原野菜のラタトゥイユソースを添えたポークソテー、クリフウセンタケと鶏のオムレツにイチゴの泡雪羹……。
思わずお腹が鳴りそうなメニューの数々は、柴田さんがこの作品のために考案したオリジナルばかり。どれもレシピはシンプルだが、いざ作ってみると実においしく出来上がる。
「料理を思いつくと、執筆を中断してとりあえず作ってみて、商売として手早く提供できるメニューかどうか確かめる作業の連続。そのため、実は書き上げるのにすごく時間がかかった小説でした(笑)。食べ物の姿が読者の脳裏で美しく再現してもらえるよう、素材の切り方など料理する奈穂の手元が想像できる書き方を意識しています」
高原の四季は都会よりもダイナミックに移り変わる。春から秋にかけては観光客も多いが、雪深い冬はペンションも休暇に入るほどの閑散期で、客足も望めない。その不安を自身の状況と重ねる奈穂は、あえてこの場所で冬を越すことで足元を確かめようとする。
「今の奈穂にはこの高原が合っていますが、誰にとっても素晴らしい場所、反対に辛い場所というのはどこにもない。それぞれの人が、その時々で空気が一番おいしく感じられる場所を求めるしかないのが人生だと思います」
高原での日々に行き詰まりを感じる人や、離婚に合意しない奈穂の夫も登場する。食べ物を前にして彼らの本音や人間性が露出するのは、「食べることは生きること」と言う柴田さんが「食」がもつ力を熟知しているからだろう。
「読んで幸せな気分になってもらえるシリーズにしたいですね。机に座って真面目に、というよりは、好きなものを食べながら読んでいただくのが一番楽しい作品だと思うので、是非お行儀悪く読んでください」
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。