西 先生にはかなりの料理を召し上がっていただきましたけど、料理にはこれがすべてという終わりがありません。その時々で素材の状態も違うし、素材の組み合わせ方や調味の仕方で別の美味(おい)しさが引き出せることもある。そうした料理の奥の深さを知っていただきたいという思いもありますから、今回は先生のご存じないような料理もたくさんあったと思います。
ふだんから、私の頭の中は寝ても覚めても料理のことでいっぱいです。そうして一生懸命考えたものをお客さまに喜んでいただけた時は、そら、もう料理人としてこれ以上うれしいことはありません。今回の先生との対談や献立作りで何がうれしかったかといえば、悩んで、悩んで決めたものに「これは美味しそう。こんな意図で作っていらしたのね」と、そのつどお褒(ほ)めの言葉をくださったり、考えをご理解くださったりしたこと。料理人というのは、いろいろと試行錯誤をしたうえで自信をもって料理をお出しするのですけど、自己満足であってはいけない。お客さまに満足していただいて初めて実を結ぶものだと思います。
ふだんの営業の中でも、お客さまが料理を召し上がった時の表情で、ああ満足していただけたかなとか、お好きじゃなかったかなというのはすぐにわかります。美味しいと感じる時のお顔は、それはもう自然とほころぶもんです。言葉がなくても、お顔は正直です(笑)。
──現代は、素材も料理も「季節感」が薄れてきている印象が強い中、この本では旬の素材や折々の行事を通して四季の移ろいの素晴らしさを強烈に感じさせてくれます。平岩さんも、西さんの料理のおかげで「忘れかけていた季節感を取り戻すことができた」とおっしゃっていますね。
西 今の時代は、「料理とは季節を味わうもの」という本質が見失われているのでしょう。旬の時季のものを素直にいただくことが、もっとも美味しいし、調理しやすいものでもある。量も豊富に出回るから、それだけ安価でもあるんです。自然が、折々に料理すべきものを教えてくれるのですから、私たちはそれを素直に受け入れることが大事です。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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