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「反米」のために損をしている日本<br />歴史認識問題、政治経済――日米戦後70年の「ねじれ」を明らかに

「反米」のために損をしている日本
歴史認識問題、政治経済――日米戦後70年の「ねじれ」を明らかに

文:冷泉 彰彦

『「反米」日本の正体』 (冷泉彰彦 著)


ジャンル : #政治・経済・ビジネス

「日本的労働慣行」に潜む反米

 その背景には、父親が家事や子育てに関与するカルチャー、そして何よりも「他人の仕事に手出しをしてはいけない」という厳格な「職務要件(ジョブ・ディスクリプション)」や成果主義が「ワーク・ライフ・バランス」と整合性を持って運用されているという労働慣行があるわけです。

 また、夫婦の関係も「ロマンチック・ラブ・イデオロギー」とでも言うべき「核家族に求心力を与える仕組み」がカルチャーとして機能する中で、3人の子育てと夫婦のキャリア開発を、核家族という「小社会」で「回していく」ことができているわけです。

 こうしたアメリカの男女関係、あるいは子育てや働き方のカルチャーというのも、日本では導入はおろか、正確な理解もされていません。その背景には、財界の中に「日本的労働慣行」への固執があり、その奥には「反米カルチャー」が隠れているという問題があると思います。

 私は、何でもアメリカの方が日本より優れているとは思いませんし、日本社会にも優位性のある点はいくらでも列挙できると思います。

 ですが、少なくとも地方自治という問題、あるいは女性の活躍と出生率の向上という問題においては、日本はアメリカに学ぶ点は多いと思うのです。それを阻んでいるものの奥には、やはり「保守もリベラルも反米」という日本の政治風土が影を投げかけているのではないでしょうか?

 私は無条件で「親米」が正しいとは思いません。アメリカという相手に対して、日本は是々非々で良いと思っています。ですが、右派も左派も意識の奥に心情的な反米を抱えている現状は、決して健全とは思えないのです。屈折した反米心理をクリアにしてみることで、却ってアメリカに対しては対等の立場に立つことができるようにも思います。

 そのような心構えが当たり前になって、初めて日本はアメリカからの自立が果たせるのだと思います。また、アメリカから精神的に自立することで、改めて地方自治や女性の活躍、そして少子化の問題で、アメリカの良い面を素直に見つめる事ができるのだと思います。

 本書ではこうした現象をもたらすだけでなく、日米関係を迷走させることで東アジアの軍事外交バランスに動揺を与えるもの、つまり日米関係の深層にひそむ「反米」日本を解き明かそうと試みました。歴史認識や政治経済の問題など、日米関係の深層にひそむ「反米」感情とは何か? 従前の二項対立的な論評を突き放す中で、日米間でもつれていった「ねじれ」の構造をときほぐすことは可能なのか? 古くて新しい日米関係の問題に新たな議論を提起する一助となればと思います。

「反米」日本の正体
冷泉彰彦・著

定価:本体780円+税 発売日:2015年04月20日

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