――白坂木の『ワーキング・ホリデー』は、元ヤンでホストの大和(やまと)をある夏の日、突然、息子と名乗る家出少年の進が訪ねてきたことから始まります。大和は進と生活するため、ホストから宅配便のドライバーに転身します。坂木さんの作品では動物園職員にクリーニング店、歯科医院など、今までも「仕事」が鍵となっていましたが、今回はホストから宅配便。それに加えて父子の関係が前面に出ています。着想はどのあたりにあったのでしょう。
まず父子ものでという依頼があり、最初はおとなしいヒモパパを想定していたんです。女性のヒモになっているお父さんとその息子。でも、ヒモだと移動範囲が非常に狭いので、ひきこもり系に似てしまう。また息子のおかれた立場も悲しく、物語が動かないんですね。で、ヒモという夜の香りを生かして考えたところ、ホストに流れつきました。ホストだったらまだしも自分で稼いでいるので行動的だし財力がある。でも息子が来たら、夜の商売からは足を洗い何か別の仕事につくだろうと。そこに、もともと興味があった宅配便が結びついたんです。ホストは若いので、若い人が入ってすぐにできる仕事という体力面でも宅配便は合ったんですね。
――主人公の大和は、後先考えずにまず行動で、喧嘩っ早いが義理人情に篤い。息子の進は小学生にしてはかなり几帳面でおばちゃんくさい。坂木さんならではの優しい色合いを持ちつつも、今までで一番活発な小説ですね。
大和を元ヤンキーに設定したことで話がとても転がりやすくなりました。実は、大和はあらゆるキャラクターの中で自分に一番似たキャラクターなんです。バイクこそ乗りませんが精神的な部分は非常に近い。
――それは衝撃の事実ですね。読者の多くは、同名である、ひきこもり探偵シリーズのワトソン役の優しく繊細な坂木司に近いと思っているのではないでしょうか。
まずい(笑)。面倒くさいことが非常に苦手で、頭の片隅で「うっせえなぁ」とか思っていることもしばしば……。大和は自分に近いから書き易かったですね。社会性のある人だったら普段は押し殺している部分をすべてさらけ出したキャラクターなんです。もちろん他の登場人物も自分が作ったものなので、欠片(かけら)は少しずつあります。「めんどくせえ」などと思っているときに「だめだよだめだよ」と、進が頭の隅で囁いていたりして。進はきっと自分の社会性の象徴というか常識の部分なんでしょうね。
――そんな著者似の父子を、ホストクラブのオーナーでおかまのジャスミンやイケ面ホストの雪夜(ゆきや)、大和の転職先「ハニービー・エクスプレス」(通称ハチさん便)の正社員からバイトまで、様々な年代の登場人物が支えています。
主人公が決まったときに、周りに配置する人をできるだけ性別年代バラエティ豊かにすると、あとで意外なエピソードが出てきたり、予想もしない動きを見せたりするんです。
――カバーにあるハチさん便のロゴマークもとても魅力的ですが、なぜハチを選ばれたのでしょうか。
ロゴは、毎回装幀をお願いしているデザイナーの石川絢士さんがかわいいものを作ってくれました。ハチにした理由は宅配便の名前を考えたとき、現実の宅配業者同様、やはり「運ぶ生き物」に思いがいたったんです。ハチは花粉をつけて飛ぶし、蜂蜜も運ぶ。けれどそんなに遠距離は飛ばないというところから、生まれました。
――ハチさん便の売りである近距離にあてはまりますね。
キャッチフレーズは都内で迅速、格安! ヤマト運輸に取材に行ったとき、ハチさん便みたいな業者は最大の敵になると言われたのが嬉しかったですね。あと私の作品は、タイトルから内容がつかみにくいと言われることが多いのですが、これもそうかもしれません。