「ええもんひとつ」は値崩れしない
──表題作ともなった「ええもんひとつ」では、道具を買うときの極意として、値崩れしないことから、ゆずが言葉どおり「一番ええもんひとつだけ買うこと」と言っていますね。また「夜市の女」では、真之介が「道具をたくさん買っていれば、(高く買ってしまったものがあっても)ほかの儲けが損を埋めてくれる」と考えていることがわかります。――この二人が夫婦であるからこそバランスがとれて、「とびきり屋」がうまくいっているのかもしれませんね。
山本 そうですね。「ええもんひとつ」は、実際に友人の道具屋さんが日頃から言っている言葉なんです。百万円あったら十万円のものを十個ではなく、百万円のものをひとつ買うのがその信条。手許のお金が一千万円でも一億円でもそれは同じです。
──値崩れしないから。
山本 はい。でも、そんなにすばらしい道具はめったにないので、ふだんは並の道具を沢山仕入れる。その中で「ええもんひとつ」を残し、他のものを売って商売するようにしているそうです。そうやって損を少なくする。
──なるほど。
山本 道具屋なら、誰でもいい道具を扱いたいはずです。ただ、そのアプローチは人それぞれ、道具屋さんがいろいろな形で商売をしているということはずっと書きたかったこと。その形のいくつかを今回物語の中で描いてみました。今回描いたものとは異なる商いの形も、これからこのシリーズの中で書いていきたいと思っています。
若夫婦の成長物語として
──ゆずは「ええもんひとつ」で、老人から仁清の香炉を譲り受けるため、あえて香道の常識から外れたことをします。ゆずが老人にあの香りを「聞かせる」場面はとても感動的でしたが、同時にゆずの尋常ではない感覚と気働きに驚かされました。でもそんなゆずであっても、「さきのお礼」では、商品の仕入れで手痛い失敗をしていて……。
山本 「――あかんかった……」と(笑)。
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