- 2015.12.18
- インタビュー・対談
手紙こそ親から受け取る素晴らしい財産――千住真理子さんインタビュー(中編)
「本の話」編集部
『千住家、母娘の往復書簡 母のがん、心臓病を乗り越えて』 (千住真理子・千住文子 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
「手紙こそ親から受け取る素晴らしい財産――千住真理子さんインタビュー(前編)」より続く
病を得た母と語り合いたい。千住真理子さんの申し出に「手紙にしたい」と、提案されたお母さま。2人のやりとりは、話すことでは知りえない、お互いの本心を引き出し、より深く親子を結び付けていきます。
――この本を最初に読んだときにご家族の結びつきの強さに驚いて「家族の在り方に有名無名は関係ない」と思ったんです。お母さまが末期ガンと分かって、3兄妹の皆さんがわが事のように心配し奔走される。
千住 絆の強さ……よそ様もこんなもんでしょって思う。特に強いとは別に3人とも思っていないと思います。今も昔も頻繁に会っているわけではないし。3人それぞれに独立した後は、会うのは年に1~2回か、だれかの誕生日にたまたま時間が空いていれば会うくらいの感じだし。ただ、父や母が病気になったというような事があれば、わっと結束するようなところは確かにあるんですよね。まぁ今でも、大事なことがあるとメールでやりとりして決めたりします。
――3兄妹、3人が3人とも一流の芸術家としてご活躍されているというのは、やはりある意味すごいですよね?
千住 ……う~ん(困ったように唸り)、ま、結果ですね! 結果こうやってなんとか頑張っているけど、まぁ必死でしたよ、ほんと。一番上の兄(博さん)が絵描きになると言ったとき、絵描きってベレー帽を被って道端で生活しているようなイメージしか思い浮かばなかったので、生活していけるのかと子どもながらに心配したのを覚えていますし。若い頃は絵具が買えなくて、アルバイトをしてお金を貯めて絵具を買っていた時期が長かった。2番目の兄(明さん)だってね、作曲だなんていったって、そんなもんで食べていけるのかって学校の先生には言われてたんですよ。私も半分そう思って「この先どうやって生きていくんだろう」って本当に思っていました。そんな中で父の厳しさというのが私たちを助けたのかなと思うんです。父はまずは理想を低く掲げてはいけないと私たちに言った。例えば、「大学受験するならば1校だけに絞れ」というようなこととか、それぞれ3人に厳しいことを言って、なんて冷たい親父なんだ、と私たち3兄妹はある時期恨んだりしたけど、あれが父の愛だったんだなと思うしね。
あと、父が絶対的に毎日のように耳にたこができるくらい言っていたのは、「3本の矢になれ」と。誰か1人が脱落したら3人とも脱落したものと思えって。誰か1人だけ、とか2人だけ成功と言われても、それは成功とはいえない、それは失敗だよ、という風に常に言われていたので、お互いにお互いをいい意味で監視していたようなところがあるんですね。「おまえ、ちょっと頑張れ」とお互いに言ったりして良きライバルでした。お兄ちゃんが頑張っているんだから、私1人が足ひっぱっちゃいけないと思ったり。そうやって必死になって何かにしがみついて生きていたら、今のようになっていたという感じです。