2013.12.11 書評

解説 言葉で紡ぐ光

文: 上橋 菜穂子 (作家)

『聖夜』 (佐藤多佳子 著)

 佐藤さんは天才だ。

 彼女の物語を読むたびに、いつもそう思います。いつも、必ず。

 私も作家の端くれですから、他の作家のプラチナのような輝きに触れたら、落ち込むはずなのですけど、なぜでしょうね、佐藤さんの物語に打ちのめされた後は、妙にすがすがしい。落ち込むというより、元気になる。

 これは佐藤さんのデビュー作『サマータイム』を読んだときからずっとそうで、本書『聖夜』でも、本を閉じたとき、長いこと忘れていた、生きていることの静かな歓びが胸の底にひろがりました。

 一哉が感じた〈神〉、私たちのうちに在るそれを感じて、聞いたことのない音を確かに聞いて、身体の奥底の細胞のひとつひとつが、かすかな光を放ちながらふるえている。そんな心地になったのです。

 文章だけで、読者をそういう心地にさせることが出来る人なのです、佐藤さんは。

 本書の主人公一哉と同じように、私も中高はミッション系の学校に通ったので、朝は礼拝があり、聖書の時間もありました。いまも私は神というものがよくわからないけれど、当時はとくに、キリスト教の神、唯一の絶対神という概念が苦手でした。

 理屈としてわからない、ということもありましたが、いま思えば、大人たちが厳然と揺るぎない何かが在るということを前提として、そこから見おろすように言葉を発するのを聞くたびに、なんでそんな風に語れるのだろう? と、反発していたような気がします。

 神が本当に絶対的な創造者なら、なぜこの世は「全きもの」ではないのか。これほど不完全で、哀しみと不条理に満ちているのに、それを、神が与えたもうた試練だと納得しようとするなんて、随分と、神さまに都合よく解釈してあげるものだと思われてならなかったのです。

 そう思う一方で、そう思わずにはいられない願いのようなものも感じていました。

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聖夜
佐藤多佳子・著

定価:470円+税 発売日:2013年12月04日

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