インタビューほか

「また二人に会いたい」の声に励まされて──

「本の話」編集部

『耳袋秘帖 王子狐火殺人事件』 (風野真知雄 著)

『耳袋』という鉱脈の発見

───奇譚を集めた随筆集『耳袋』を残したことでよく知られる根岸ですが、彼を主役に据えたのは、おそらく風野さんが初めてではないでしょうか。

風野 これまでも、平岩弓枝さんの「はやぶさ新八」シリーズ、宮部みゆきさんの『震える岩』などの「霊験お初」シリーズ(ともに講談社文庫)や、ドラマでも、脇役としては、よく取り上げられてきたのですが、主役として書かれたものがいままでなかったのは、私も意外でした。私はこれまで、歴史上の人物では、寺坂吉右衛門や、勝小吉を主人公にしたりと、一度でいいから、何か当ててみたいといろいろと考えていたのですが、これがなかなか当たらない(笑)。だから、『耳袋』という題材を見つけたときは、正直なところ、快哉を叫びました。高齢化社会が進み、だんだんと老人が増えてきた現代で、同世代の老人のヒーローが生まれたら、読者にも受けるのではないか、という考えもありました。

───『耳袋』という随筆を、最初に読まれたときの印象は、いかがでしたか?

風野 『耳袋』は、千篇を超える随筆が収録されていて、この豊富な資料があればこれは、何巻でも書くことが出来る、面白いものができるぞという確信がありました。『耳袋』には、噂話、不思議な話がいくつも収録されているのですが、その結末や、解決は、書かれていないものも多い。自分は、資料から緻密に物語を組み立てるのではなく、資料から妄想を膨らませるというタイプなので、そこに作家的イマジネーションを働かせられる余地が大きかった。そこで、『耳袋』の話には、実は、根岸だけが知っている別の真相があり、『耳袋秘帖』と呼ばれる門外不出の覚え書を書いていたという設定を思いつきました。

庶民のヒーローだった根岸肥前守

───実際の根岸鎮衛といえば、御家人から町奉行まで駆け上がったいわばシンデレラボーイとして、当時の町人からも人気があったそうですね。

風野 はい。根岸の特筆すべき点は、百五十俵の小身から、南町奉行に上り詰めたことです。若き日の根岸と塙保己一を講談にした「奉行と検校」でも、二人とも、元は百姓の子どもだったという設定ですが、根岸は、元々武士ではなく素性は定かではないという噂は、当時からあったようです。実際に、スリなどを使い、他の奉行とはずいぶんと違ったやり方で、情報を集めていたそうです。また、庶民の噂話を集めたというのも、彼独自の情報収集法の一環だと思いますが、同時に根岸の好奇心が実際に旺盛だったことの表れではないでしょうか。そこを想像で膨らませて、進取の気質に富んだ好奇心が旺盛な人物という設定にしました。

王子狐火殺人事件
風野 真知雄・著

定価:600円(税込) 発売日:2011年05月10日

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