インタビューほか

「また二人に会いたい」の声に励まされて──

「本の話」編集部

『耳袋秘帖 王子狐火殺人事件』 (風野真知雄 著)

───根岸は、若いころの放蕩で肩に赤鬼の刺青があることから「赤鬼奉行」と綽名されていますが、同じような人物として池波正太郎さんが書かれた長谷川平蔵(鬼平)、遠山景元(遠山の金さん)などを連想させます。それらは意識されましたか?

風野刺青といえば、遠山の金さんですが、彼は根岸より、四十年ほど後の人でして、刺青があったという点では根岸のほうが先なんです。やっぱり、池波さんのお書きになった鬼平は、意識しましたね。放蕩者だった武士が、そのネットワークを生かして自ら探索に当たる、「寛政の改革」の際に松平定信に引き立てられたなど、二人には共通点も多い。ただ、池波さんの場合、鬼平と作者を重ねて語られたり、ご本人も洒脱なイメージがありますが、根岸は、自分とはぜんぜん違う。だからおのずと違うものが生まれるはずだと、そこは開き直りました。

───作品のなかの主人公・根岸肥前守は、大人のひとつの理想形だと思いますが、風野さんのなかでは、根岸はどういった人物として捉えていますか?

風野 自分から一番遠いところにいる人物ですから、作者からすれば、けして書きやすい人物ではありませんね。私自身は、むしろ、栗田や坂巻なんかに近い、もっと卑小な人間で、精いっぱい、背伸びをして理想の大人を書いているというのが正直なところです。もし、自分が根岸に似ているところがあるとすれば、一人の女性に一途なところだけ(笑)。もう一つは、私がダメな人間だからでしょうけれど、できれば、他人には自分と同じように寛容でありたいというところ。その願望が作品中の根岸の性格に投影されているのではないでしょうか。だから、清濁併せ呑むことが出来る根岸の器の大きさにあこがれます。たとえば、根岸が主役の落語「鹿政談」でも、豆腐屋がうっかり殺してしまった鹿を、犬ということにして、不問に付す。そういった、杓子定規にはいかないことも、大局を見て判断しようとするところが、彼の持っているスケールの大きさで、それが大人としての魅力として、人々の心を捉えているのかもしれません。

王子狐火殺人事件
風野 真知雄・著

定価:600円(税込) 発売日:2011年05月10日

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