事件の背景にあった基礎研究の軽視や成果主義の予算配分
司会 梯さん、ありがとうございました。続いて受賞者の須田桃子さんの会見に移ります。
最初に須田さん、一言、ご感想をお願いいたします。
須田桃子(以下、須田) 私にとっては、自分で一冊の本を出すということ自体が初めてで、そのこと自体が光栄で、すごく嬉しいことでしたので、この本がたくさんの人に読んでいただけて、また、こんなに大きな歴史のある賞をいただけたということが、本当に信じられないような、ちょっと夢を見ているような気分です。
司会 質問のある方は挙手をお願いします。
――梯さんの論評の中で科学ジャーナリストという表現がたくさんありましたが、須田さんにとって、科学ジャーナリストの目指すべき像は?
須田 研究者と同じように、そのものを深く理解するというのは実は不可能だと思っているんですね。研究を自分でしている人でないとなかなかその真髄までは理解出来ないんですけれども、ただ、私はいつも新聞記者として仕事をしているときに、本当にすべてを正確に細部まで理解は出来なくても、正しいイメージを把握して分りやすく伝えるということを心がけています。
結局、新聞の紙面にしても、本だったらたくさん文字が書けるんですけれども、それでもすべてを正確に表現し切ることは多分出来ないと思っているんですが、正確なイメージを捉えて、伝えていくことなら自分でも出来るかもしれないと思って、いつも仕事をしています。
――正確なイメージというのは大づかみの全体像ということでしょうか?
須田 そうですね、大づかみの全体像というのは、あるひとつの成果があったときに、それが科学史においてどういう意義づけができるか、意味を持つかを理解することはまず最初だと思います。そこに起きている、科学現象を自分なりに理解して、正確さという意味では研究者と同じレベルでは出来ないと思っているが、科学ジャーナリストなりの理解の仕方があって、専門家ではない読者に伝えるための技術はあると思っている。私もまだ未熟なところはたくさんあるんですが、日々努力をしているところです。
――本の最後に国の科学技術予算の配分の問題点について書いてありますが、今回の事件を受けて科学政策で今後考えていきたいことは?
須田 まさにSTAPの取材をしている過程で、STAP事件の背景には、基礎研究を軽視するような、また出口思考とか成果主義の科学予算の配分があったんじゃないかということを感じていたんですが、実際にどのように科学研究費が配分されているのか、具体的に誰がどうやってというところは取材していきたいと思っています。
――執筆中に、同じ早稲田の先輩として小保方さんへの怒りですとか、科学をないがしろにした小保方さんに対する個人的な感情というものはお感じになりましたでしょうか?
須田 分野が違うこともあり、早稲田出身というところではなかったです。ただ、小保方さんは説明責任を果たしてほしいとはずっと思っていて、4月の会見以降、公の場で質問に答えるという場がなかったので、2本の論文の責任著者である彼女の説明責任を果たしていないんじゃないかと思っていました。
先日の野依理事長の記者会見のときも、「説明責任を果たしたと思いますか?」という質問をしたのですが、ずっとその思いはこの1年間ありました。
小保方さんに対してというよりも、早稲田大学に対しての怒りはすごくありました。小保方さんの博士論文の扱いについて、ちょっと異常な判断だなぁと思ったので、そこは卒業生としての怒りはもちろんありました。
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