取材班全体の仕事が評価された受賞
――新聞記者だと、普段忙しくてなかなか原稿を書く時間がないと思いますけれども、どんな時間に原稿を書こうと思われたのか。新聞記者は紙面で勝負するというのがあると思うんですけど、その上で本を書きたいと思った動機をお答えください。
須田 最後の質問からお答えすると、7月に文藝春秋からお話をいただいたことがきっかけ。新聞記者は紙面で勝負するというのが一義的にあるので、本を書いている途中も紙面で勝負していたつもりです。
ただ、新聞紙面は本当に文字数が限られていて、取材したことの十分の一、何十分の一くらいしか書けないということが日々あるので、取材の過程で、新聞記事で書ききれなかったこと、だけれども自分ですごくおもしろいと思ったり、これはぜひ伝えたいと思っていたことはたまっていたので。それを表現出来る場を与えていただけたことはすごく感謝しています。
また、今回STAPの本をつくるときに、作家の白石一文さんが毎日新聞を購読してくださっていて、私の名前を挙げてくださったそうなんです。白石さんにはまだお目にかかったことはないですが、こういうきっかけ、機会をつくってくださったことにすごく感謝しています。
毎週1章ずつ書いていたんですけれど、私にはハードなスケジュールで仕事以外の家にいる時間や週末だけではスケジュール内に書き終えることが出来なくて、昼間の勤務時間内でもかなりの時間を割くことを許していただいた。そこは本当に、同僚の皆さん、上司にすごく感謝しています。
――理研やSTAPの取材は今もされているんですか?
ほぼSTAPの事件は幕引きが図られてしまったので、今現在、リアルタイムで取材していることはすごく少ないんですが、続けてはいます。
――理研が新しい体制になったので印象を。
須田 松本理事長の就任会見は取材出来なかったので、直接の感想は言えないのですが、野依さんの記者会見のときはこの1年続けていた取材での、理研への失望感が上塗りされた気がしました。
STAP事件が著しく科学への信頼を損なったことに、私は科学を愛する者の1人として非常に憤りを感じながら取材していたんです。その原因というのは、単に虚構の論文が世に出てしまったということだけではなくて、虚構かもしれないという疑義が噴出している中での理研の対応の悪さにあったと思っています。
一流の研究者が集っているはずの、日本の最高峰であるはずの研究機関がこういう対応をするのかというところで、科学者コミュニティーだけでなく社会全体の失望を招いたと思っています。
司会 須田さん最後に一言。
須田 先ほど梯さんの選評を感動しながら聞いていました。重要な情報を死蔵させないという姿勢も評価していただいたんですが、そこは私ひとりの判断ではなくて、同僚や中心となったデスクの判断。いつ出すか、出す意義について常に議論しながら仕事をしてきたので、そういう意味では、取材班全体の仕事を評価していただけたと思っています。そういう職場で、尊敬出来る同僚や先輩と働けていることを改めて幸せに思いました。
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