書評

“浪花節”が光るスター研究者の人生

文: 山内 昌之,片山 杜秀,成毛 眞

『ネアンデルタール人は私たちと交配した』 (スヴァンテ・ペーボ 著/野中香方子 訳)

ラボのシャンパンで乾杯

山内 文系学者としては、自然科学者の生態が垣間見えたのも面白かった。文系なら世紀の大発見をしたら徹夜も止むなし、資料まみれになりながらそのまま一直線で突っ込んで研究すると思いますが、ペーボたちは違う。まず、ラボの冷蔵庫からシャンパンを取り出して祝福の乾杯をしてその日は終わり(笑)。研究が佳境に入ってもグループ全員にクリスマス休暇まで与える。結局はスキーをしながらネアンデルタール人のDNA配列について考えていたそうですが。

 さらに痛感させられたのは、小保方氏の研究がいかに杜撰だったかということ。研究結果を二重にも三重にも慎重かつ客観的にチェックして、発表する場合にも厳密に説明し尽くせる分量をしっかり与えてくれる研究雑誌媒体を慎重に選ぶ。だから、『ネイチャー』や『サイエンス』には寄稿しません。その過程が丁寧に記述されています。

片山 小保方さんの事件もそうですが、現在の自然科学の最先端は細分化・専門化しすぎて、一般常識からかけ離れたほとんど異界のイメージがあるのですが、著者は、いったん考古学者を志した異色の経歴のせいか、同業者たちとは一線を画した教養人らしさを醸しています。

成毛 本書にも登場するPCR法というDNAを増幅するための手法の発明でノーベル賞を受賞した生化学者、キャリー・マリス博士は、LSDとコカインでラリっている時にPCR法を閃いたという噂があるくらいです(笑)。著者のテーマは、荒っぽい人たちが開拓してきた分子生物学の分野と、地味な古生物学が混じり合う特異な分野だったのでしょうね。

息子はネアンデルタール人?

山内 彼は「クレイジーな疑問」だと前置きしていますが、もし現代人が皆、ネアンデルタール人のゲノムを1~4%持っているのなら、高頻度でネアンデルタール人のDNAを持つ人間が生まれて、社会から見下されることにならないか、と指摘しているのは面白いですね。さらに、ペーボの息子が手に負えないのはネアンデルタール人のDNAが多く集まったからではないかと心配までしている。そんな言い方をしたら、ネアンデルタール人に対する名誉毀損が成立するのではないかという、つまらないことまで考えてしまいました(笑)。

片山 こういう牧歌的なことも書いているあたりは、著者がスウェーデンで生まれてドイツで研究してきたという経歴が影響しているのかもしれませんね。アメリカの生き馬の目を抜くような科学者とは異質なヨーロッパの薫りがします。

山内 彼が本書の中で唯一説いていないのはホモ・サピエンスとネアンデルタール人がどのように交配していたかという問題です。やはり一般世間が関心を持つのは、「どうして交配が可能なのか」ということ。しかし本書では、どこで行ったか、体位はどうだったのかなど、交配の具体性には触れられていない。つまり『アサヒ芸能』的なところがないんだ(笑)。当たり前ですが、彼もやはり学者なんですね。