2013.09.05 書評

世界中を回り人類の足跡を
追いかけた体験を活写

文: 鎌田 浩毅

『人類20万年 遙かなる旅路』 (アリス・ロバーツ 著/野中香方子 訳)

文藝春秋 1995円(税込)

 人類は今から約二〇万年前にアフリカで誕生し、世界へ広がっていった。その驚くべき物語を、英国BBCテレビの人気番組で解説を担当した女性人類学者が、第一級の科学ノンフィクションへと仕立てた。アフリカから始まりアジアからアメリカまで、彼女は世界中を回りながら人類の足跡を追いかけ体験を活写した。

 第一章では人類の誕生と「出アフリカ」を追跡し、第二章ではインドからオーストラリアを巡って、火山の大噴火が人類存続に与えた影響を探る。第三章ではアジアを軸に人類の北方移住を追いかけ、第四章ではヨーロッパを舞台にネアンデルタール人の滅亡について語る。最後の第五章ではアメリカへ飛び、新世界への移住ルートを模索する。

 火山学を専門とする評者は、インドネシアで起きた大噴火と人類の関わりに興味を持った。「七万四〇〇〇年前、現在のスマトラ島で巨大な火山が噴火した。(中略)当然ながら、人類が経験した最大の噴火だった」。

 これが当時の人口を大幅に減らしたという仮説があるのだが、「環境に大きな異変が起きた時、狩猟採集民は、定住する人々よりはるかに巧みに、それをしのぐことができたはずだ。彼らは柔軟だからね。狩猟採集の戦略を変えることもできたし、より住みやすい場所へ移ることもできた」。もし今、大噴火が起きたら、身動きの取れない我々はもっと深刻な影響を被ると予想されるのだ。

 さらに、遺伝子に関する様々な調査から、この時期の人類には「進化のボトルネック」現象があったと言う。すなわち、ボトル瓶の狭い部分のように、大噴火によって全人口が極度に少なくなったのである。「大噴火が生態系に影響したのは間違いない。水は汚染され、植物も動物も苦しめられた。植物や動物を食べて生きていた人類も、当然ながら影響を受けただろう」。この話は活火山が一一〇個もある日本列島に住む我々にとっても決して他人事ではない。

「初期の人類がいかにして過酷な環境を生き抜き、地球全体に拡散していったかを思い起こせば、わたしたちが柔軟で、適応力に富む種であることがわかる」。「3・11」は日本社会に大きな痛手を残したが、一方で日本人は揺れる大地で何万年も生き延びてきたことも事実である。毎年のように起こる台風や地震、また人生において一度は経験する噴火などのさまざまな自然災害に対して、柔軟に対応しながら生きる術(すべ)を身に付けているのではないだろうか。人類の二〇万年に及ぶ足跡をたどりながら、日本人のDNAに組み込まれてきた「しなやかさ」にも思いを馳せていただきたいと思う。