この本に収録した作品は、いずれも『文藝春秋デラックス』に連載したものである。
ここでとりあげた主人公は、卑弥呼から桂春団治まで、さまざまで、バラエティがありすぎて、突飛に見えるかもしれないが、これは雑誌の編集テーマが毎号ちがっていたので、そのテーマに副(そ)ったからである。
こんど一冊にまとめることになったので、一応、年代順に並べた。
まとめてみると、結局、主人公のとりあげかたが、おのずから自分好みの人物を並べることになったのに気づく。
私は歴史に昏(くら)いから、前人未到の研究をここで発表するわけではない。現在の時点で、誰にも手に入るような資料と史実を自分勝手に按分して、自分好みの人間に仕立てただけである。
歴史というものは事実のつみ重ねにすぎず、それを素材として、美しくも醜くも、好きなように絵取ってゆくのは、あとから生まれた人の利得なのである。
もはや地下に眠る死者は、あとから生まれたわれわれに、なにも求めず、なにも強いない。
われわれは、自分の好みのままに、死者たちの生涯をなぞらえ、形づくってゆく。
だから、まちがったなぞらえかたや、偏愛が、史実をゆがめているかもしれないが、それは一面からいうと、その人が史実をこう読んだ、という存在証明にもなるだろう。私は小野小町や淀君や、スサノオの神たちの生涯を、かく読んだ、ということである。
ところで私は、歴史上の人物でも、自分の中のある部分と照応し、ひびきあう人間でないと、愛することができない。
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