
- 2017.11.29
- 書評
寄り添えるかもしれないという希望は、手におえる男ではないと打ち砕かれる、影山という男
文:壇 蜜 (タレント)
『ブルース』(桜木紫乃 著)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
あれから三年が経過しようとしている。私は相変わらず世間から忘れられたり思い出されたりの波のなか、人から好かれ嫌われる日々を過ごしている。特に不祥事も起こしてはいない。三年前に何となく予想していた想定内の三年、とマネージャーも言う。ぼちぼち、まあまあの売り上げと成果。予想外の出来事といえば最近、「ずんだ」と言った私の唇が少し世間をざわつかせたくらいだろうか。三十六歳、己の唇の破壊力をこんな形で知ることになるとは思わなかった。ざわつきが落ち着いた頃、また『ブルース』に出会う。今度は文庫化の解説依頼だった。改めて作品を読み返す。まずは釧路の寒さに関する描写が、現実に読んでいる私の周囲の気温を下げていく。湿った男女のやりとりや、出会う女に救いも失意も与える影山のシルエットが冷たくなった私の体に溶け込むように流れ、「作品のなかに入りたかった私」が心を占めていく。あっという間に戻れるものだと驚いた。出会いたかった……と思いながら読んでいた三年前と変わらぬ自分がいたことに、成長していないと嘆く気持ちはない。むしろいまだに「作品として距離を置いて読まぬ自分」でいられたことが嬉しいくらいだ。影山に寄り添えるかもしれないという希望を持たされ、でも手におえる男ではないと打ち砕かれ……。心と体をばらばらに切り離されて値踏みされ……。ああ、こんな妄想していたっけなと後ろ歩きする気持ちで読み進めていった。
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