この『うみの歳月』は、宮城谷昌光氏が作家として無名だった頃の作品を集めた一冊である。最初期の現代小説をぜひ読みたいという求めに応じて、二〇一五年二月にこのかたちで自費出版された。それが今、文庫本として多くの人が読めるようになったことを喜びたい。
初めて活字になるもの、活字にはなったけれどごく少数が目にしただけのものと、いわば二種類がまじっている。しかしそのような区分はいかにも仮のもので、ほとんど意味がない。意味があるのは、宮城谷氏の初期作品の存在そのものである。
作品を世に問いはじめ、一部では注目されながら、氏自身が思うところあって、そのまま創作をつづける道を選ばなかった。その「思うところ」とは、格別に強いものであった。だから、再び作品を書き出すまでに空白にみまごうような長い時間があった。空白にみまごうようなというのは、その時間にも独自の作品が試みられていたからである。
そのへんの経緯を、まず知っておく必要がある。一篇ずつの作品を論評するより(それもむろん可能であるが)、この時期の宮城谷青年という一個の精神について知ることのほうが大切ではないか、と私などは考えてしまう。そのために、若い足どりをざっと把握しておきたいので、年譜を見ながら紹介してゆく。
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