書評

同時代を生きる現役作家の作品を追いかける最大の愉しみとは?

文: 重松 清 (作家)

『ナイルパーチの女子会』(柚木麻子 著)

『ナイルパーチの女子会』(柚木麻子 著)

〈さあ、この世界は生きるに値するのかしらね?〉

『ナイルパーチの女子会』には、同じフレーズは登場しない。登場しないのに、なぜか、その問いかけこそが、『ナイルパーチの女子会』の、「(女性同士の)友情」よりもさらに柄の大きな主題に思えてならない。

 同性の友達がいなくても。

 ひとりぼっちでも。

 自分の輪郭をはっきりと定められなくても。

 夢見るころは過ぎ、奇跡のような美しい瞬間も過ぎ去ったあとも。

 この世界は、生きるに値するのか――。

 その問いかけに対して、『BUTTER』の里佳が物語の最後の最後――ほんとうに単行本の本文最終頁で返す答えは……もちろん、それを明かすほど、僕は無粋ではない。

 では、同じ問いに、栄利子と翔子なら、どう答えるのか。

 こちらもまた、先回りして語るべきものではないだろう。本作を読了したときに、あなたの胸に残るもの、それがすべてである。

 現役の最前線の作家の作品を追いつづける醍醐味は、「過去の作品」はもとより、「次の作品」との間に描かれる星座を堪能できることだろう。

 本作『ナイルパーチの女子会』は、柚木麻子さんがデビュー以来追い求めてきた主題の一つの到達点であり、その後の柚木さんが展開する文学への結節点でもある。

 その意味で(あわてて言っておかなくちゃ)――本作が第二十八回山本周五郎賞を受賞したことは慶賀にたえないが、それに負けないほど/もしかしたらそれ以上に、第三回高校生直木賞に輝いたことを言祝ぎたい。

 若い世代の読者は、選考会の議論で、〈はじめは女子特有の関係性の物語だと思って読んでいたが、今日の議論を通じてもっと普遍的なものにつながっていると気づきました。もがいているところは男でも女でも一緒〉〈これを読むことで私の中に新しい価値観が生まれた〉などと素晴らしい評言を次々に口にした。作者より二十歳近く年長、だから高校生にとっては親父さんよりさらにオジサンの僕は、いいぞ、頼もしいぞ、と高校生たちに拍手する一方で、そうか、きみたちにも栄利子や翔子の苦しさや悲しさがわかるんだなあ、と少し胸が締めつけられて、だからこそ、もう一度、喝采とともに語りかけよう。

 よかったな、きみたちには柚木麻子さんがいる。きみたちは、柚木さんが書きつづける作品群から、どんな星座を描くのだろう。それをいつか教えてほしい。

 一生付き合える作家だぜ、このひとは。

ナイルパーチの女子会柚木麻子

定価:本体750円+税発売日:2018年02月09日


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