書評

シリーズ全てを読み終えて、思い出したこと

文: 小橋 めぐみ (女優)

『闇の叫び』(堂場瞬一 著)

『闇の叫び』(堂場瞬一 著)

 人生で一度だけ、警察に呼ばれて事情聴取を受けたことがある。

 高校生の時だった。放課後、廊下で友人と話していたら、

「小橋さん、至急職員室まで来てください」

 と、校内アナウンスが流れた。クラスメイトの男子が走り寄ってきて「先生たちが、小橋はどこだ?って探してたぞ。お前何したんだ?」と責め立てた。何もした覚えはなかったが、何か怒られるのかな、とドキドキしながら職員室へ向かった。

 神妙な顔をしていた私に、担任の先生もまた神妙な顔で、

「生徒手帳、盗まれたんだって?」

 と言った。その時点では、紛失していたことさえ気づいていなかった。

「〇〇署から学校に連絡があって、小橋さんの生徒手帳を盗んだ犯人が捕まったって。だから早めに警察まで取りに行ってください」

 その、〇〇署が自宅からも学校からも離れた場所にあって、私の生徒手帳は随分遠くへ来たもんだ、と、降りたった駅で、吞気に思っていたことを覚えている。

 受付で名前を言い、取調室のような、がらんとした小さな部屋に通された。机を挟んで、初めて刑事さんという職業の人と接することになった。四十代ぐらいの、身体のがっしりした男の人だった。

 最初に、捕まった犯人について話してくださった。いわゆる、スリだった。確か犯人が盗んだものの一覧を写真で見せてくださったように思う。こんなに色々盗んだのか!と、私は目を丸くした。とにかく掏れるものがあったら、なんでも掏る人だったらしい。財布もあったが、生徒手帳もいくつかあったし、雑貨みたいなよく分からないものもあって気になったが、聞ける雰囲気ではなかった。刑事さんは、

「犯人はこの男なのですが、見覚えはありますか?」

 と言って、私に写真を見せた。人生で初めての犯人生写真。二十代前半くらいの、ほっそりした男の人で、特に悪そうな感じも漂っていない。記憶を辿ってみたが、見覚えはなかった。

「すみません、記憶にありません」

 と謝ると、

「いやいや、大丈夫です」

 と、刑事さんは笑顔で言ってくださった。事情聴取は続く。



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闇の叫び堂場瞬一

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