書評

フランス革命も、アメリカ独立も――歴史はいつも会計士が作ってきた!

文: 山田真哉 (公認会計士・税理士)

『帳簿の世界史』(ジェイコブ・ソール 著)

『帳簿の世界史』(ジェイコブ・ソール 著)

 私は会計士・税理士として、普段から「帳簿」に向き合っています。今の時代、「会計」「決算」というのはあって当然のもので、世界経済はそれなくして成り立たないと言っても過言ではありません。しかし本書で描かれるのは、その存在が当たり前ではなかった時代に奮闘した会計人たちの姿です。そして、当たり前でなかったものが当たり前になる時代の境目では、まさに「その時歴史が動いた」とでも言うべき、数多くのドラマが生まれていたのです。


 たとえば本書の冒頭に登場する、ルイ一四世の下で財務総監を務めたコルベール。彼は王国の決算を王がいつでも見られるように、ポケットに入るサイズの小型帳簿を作成しました。そしてルイ一四世は収入・支出・資産が記入されたその帳簿を年に二回、コルベールから受け取り、実際に持ち歩いていたのです。コルベールは、国の繁栄のためには国王自らが監査責任者にならなければならないと考え、会計を「国家運営」の技術へと作り変えました。コルベールによる会計革命の結果、ひっ迫していたフランスの財政は劇的に改善、ルイ一四世は世界最大の富豪となり、「朕は国家なり」と豪語するに至ったのです。

 メディチ家を繁栄に導いたコジモ・デ・メディチもまた、私たちに監査の重要性を教えてくれます。メディチ家といえば、銀行業で大成功した一族ですが、銀行の支店はヨーロッパ中に展開されていました。それらをまとめあげるためには、どう考えても高度な会計、簿記の技術が必要になってきます。メディチ家はこれをどうしていたか。第3章にある通り、コジモ自らが監査を行っていたのです。


 本書では、「監査」が一つのキーワードになっています。監査とは、帳簿が適正につけられているかどうかを、第三者が確認することです。本当に面倒な、時間のかかる作業ですが、会計士が監査をする場合、自分の専門ではない分野の数字も見ることになるので、感覚的に「正しい/正しくない」という判断ができません。そのため、目の前の数字から実際の業務を想像しながら、膨大な項目を一つひとつチェックしていくことになります。

 そこで間違いを見つけたら経理担当者は修正をするわけですが、この修正がまた、煩雑な手続きを要します。というのも、帳簿上のそれぞれの数字は他の数字と密接にリンクしているので、どこかを修正すると、それが影響を与える範囲すべてを修正しなければならないのです。この修正の作業に、実に多くの時間を費やします。間違った帳簿ほど面倒なものはないのです。

 古今東西、人間は皆なんだかんだミスをするもの。特に、会計のプロでない人が作った帳簿には、だいたい間違いが潜んでいます。そう考えると、各国に散らばるいくつもの支店の監査を行っていたコジモ・デ・メディチの作業量は、気が遠くなるようなものだったことでしょう。その苦労は、察するに余りあります。しかし、その努力によってこそ、メディチ家は一時代を築くことができたのです。

帳簿の世界史ジェイコブ・ソール 村井章子訳

定価:本体880円+税発売日:2018年04月10日


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