- 2018.11.13
- 特集
現金が消える!? 新聞記者が予測、AIが変えるお金の未来とは?
文:坂井 隆之 ,文:宮川 裕章 ,文:毎日新聞フィンテック取材班
『AIが変えるお金の未来』(坂井隆之・宮川裕章+毎日新聞フィンテック取材班 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
現金が消える? 仮想通貨で払う? それとも国がデジタル通貨を出すのか!?
いま、私たちは「お金」の歴史の転換点にいる。フィンテックの進化は「お金」を、私たちの住む世界を大きく変えようとしているのだ。
激変するお金の「現場」を新聞記者たちが丹念に取材したのが、文春新書『AIが変えるお金の未来』である。100人を超える識者、実務家らに話を聞き、いま何が起こっているのか、未来はどうなるのかを探った。
その成果が以下に紹介する近未来ストーリーだ。『AIが変えるお金の未来』から抜粋だが、一部をのぞけば、ここで描かれた技術エピソードの「芽」はすでに現実のものとなっている。
私たちの未来はユートピアなのか。それとも……。
二〇三五年四月×日──。かつて東京と呼ばれたまち、「ニュートーキョー」。
「昔は春ってこんな暑くなかったな……」
汗ばみながらX氏は目を覚ました。頭をかきながら、「サイキック・ゴーグル」をかけてキッチンへ向かった。体に埋め込んだ端末から、ここ数日飲み会が続いたせいか、「塩分を取りすぎです。このままだと来月には保険料が三%上がります」との指摘が脳内に伝わったので、朝食は好物のベーコンと目玉焼きはあきらめ、ヨーグルトにした。
ゴーグルを通じ、英国の大学に留学中の娘から連絡が来た。
「どうした、こんな時間に。そっちは深夜だろう。あんまり不摂生だと保険料も上がるし、ちゃんと勉強しないとAIが将来性はないとみて、留学費用融資の金利もあがるぞ」
「大丈夫よ、パパ。ところで、今月はパーティーが多くて……」
「分かったよ」
娘には昔からついつい甘くなってしまう。ゴーグルに「娘のウォレット(電子財布)に一アルティメット・ビットコイン(UBTC)飛ばしておいて」と伝えた。海外送金の手数料は日銀発行の「デジタル円」でもそこまでかからないが、UBTCの方が若干安いのだ。翻訳アプリが通訳を駆逐したこのご時世、海外留学にどれほど意味があるかは分からないが、娘にはなんとか仕事に就いてほしい。仕事がなくても最低限のベーシックインカムは保証されているが、やはり働く苦楽を味わってほしい。
そんなことを考えていたら、ゴーグルが「一〇年後も残る職業」を検索して表示してくれた。「お節介だな」と苦笑していたら、続いて英国のサッカーの結果も出た。
「半分はサッカーのことを考えているのがばれているな」
寝る前にオート検索機能をオフにし忘れていたなと思い出し、機能を切った。サイキック社は、ゴーグルを通じネット検索から金融サービスまで全てを請け負う米国のプラットフォーマー企業だ。かつてはグーグルなども栄えたが、脳内から直接、情報を取り、そのまま外部へ情報を送れる機能で覇権を奪った。
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