2018.05.08 インタビューほか

<北村薫インタビュー> 父の日記から甦る小さな昭和史

「オール讀物」編集部

『小萩のかんざし』

『小萩のかんざし』(北村薫 著)

 平成四年に逝った父が遺した、膨大な日記。そこには昭和の初期、慶應義塾大学から大学院へと進んだ若き日の出来事が克明に綴られていた。

「もう父が亡くなって二十六年になりますが、最初に読んで以来、息子であり、物書きである自分が、昭和の時代を生きたこの記録を、時の波間に埋没させることなく、何とか世に出すことができないだろうか――もちろん、父の個人的な日記ですから、ふつうの人が読んだって面白くはありません。ただ、同時代を生きた人やもの、世の中の移り変わりを描いていけば、父のことを書くと同時に、ひとつの時代をきり取ることができる。そうすることで、普遍的なものになり得るのではと考えたわけです」

 こうして自らの「ライフワーク」と位置づける『いとま申して』の執筆に、平成二十一年『鷺と雪』(文春文庫)で直木賞を受賞した直後からとりかかった。一巻目では、雑誌「童話」を巡る人々を、二巻目では慶應本科と折口信夫を軸に物語を進め、本作『小萩のかんざし』でいよいよ三部作が完結となる。

「三巻どこから読んでいただいても〈小さな昭和史〉として興味を持ってもらえると思いますが、今作品に関しては折口信夫と横山重という、対照的な人物の姿に焦点を当てて、ふたりの巨人の足跡とともに時代を追っていきました。それは池田彌三郎氏、戸板康二氏らがたくさんの記録を残してくれたからこそ書くことができたのですが、そのどこを抜くかによって彼らの行動や言動の意味が違ってくるんです。当人たちはまったく感じていなかったかもしれないけれど、実はすごく大きな意味があったりするし、風聞のもつ怖さというのは、現代にも通じるものがありますね」

 アンソロジーやエッセイ、評論にも腕をふるう北村薫さんにとって、「的確な引用というのは、それ自体がある種の創作」だという。その資料探しのため普段から古書店を巡り、「何の役に立つか分からないものを山のように持っている(笑)」が、その収集が大いに役立った。

「自分の家族のことを書いていますが、感情に溺れて書いてしまうようなことはなく、現実にあるものを使ってうまく書けたように思います。最終的なエピローグは大いなる救いを信じたいという気持ちがあって、これまでの対立、相克をすべて包むような結びにしました。これまでの様々な伏線をようやく回収できて、大きな肩の荷を無事におろせたことは、本当に大きな安堵と喜びです」


きたむらかおる/一九四九年埼玉県生まれ。八九年『空飛ぶ馬』でデビュー。九一年『夜の』で推理作家協会賞。二〇〇六年『ニッポン硬貨の謎』で本格ミステリ大賞評論・研究部門。

こちらのインタビューが掲載されているオール讀物 5月号

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