- 2018.06.22
- 書評
こんなカッコいい男はいない!――逆境に負けないために読むべき本(あとがき)
文:高杉 良
『懲戒解雇』(高杉 良 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
この作品は、一九七八年、「小説宝石」に読み切り中篇小説として発表した「エリートの反乱」を改題、大幅に加筆して、八五年に講談社文庫から刊行された。三十年余の歳月を経過して、このたび文春文庫より再刊される運びとなった。聞けば三回目の文庫化だ。リアリティとエンターテインメントの両方を追求できたことが、長く読み継がれている一因ではないかと、手前味噌ながら思う。
久しぶりに自作を読み直して、主人公の森雄造にのめり込んで書いていたことを想起せざるをえなかった。そして、次々と懐かしい顔が目に浮かんだ。
森にはモデルがいる。当時、日本を代表する石油化学メーカーであった三菱油化で、技術系の課長職にあった所沢仁(しよざわひとし)さんだ。社長表彰も受けるほどのエリート社員が会社を相手に訴えを起こした前代未聞の出来事は、大きな話題となった。今でも活き活きと蘇る彼の言葉は、作中に刻んである。
「もし、俺がこんな理不尽な暴力に屈服して依願退職にしろ、懲戒解雇にしろ黙って受けていたら、両親に対して、妻子に対して、友人や恩師に対して顔向けできると思うか。(略)唯々諾々(いいだくだく)と従っていたら、俺の人生に陰が出来てしまう……」
名誉ばかりか、人間性も疑われる、という熱い言葉に、私は胸を打たれた。並みのサラリーマンには真似できない、実に芯の通った人物だった。
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