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『まよなかの青空』谷瑞恵――立ち読み

『まよなかの青空』谷瑞恵――立ち読み

谷 瑞恵

電子版20号

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #小説

 哲也は、どうすればあおぞら号が見られるか調べると言って、どこかへ出かけていった。日菜子と陸は、名古屋駅にほど近いビジネスホテルで仮眠をとり、近鉄の駅を確かめようと出てきたところだ。

「ねえママ、あれは?」

 長いこと車で移動したにもかかわらず、陸は疲れた様子もなく元気だ。それに、目新しい電車なら興味がわくようで、たった今ホームへ入ってきた、黄色と白のツートンカラーが美しい列車に釘付けになった。これなら、あおぞら号の青と白の車体にも興味を持ってくれるかもしれない。が、長く地元を離れている日菜子にも、黄色と白ははじめて見る車体だった。

「ええと、そうね、ママも知らないわ」

「かっこいいね」

「アーバンライナーですよ」

 近くを通りかかった駅員がそう言った。

「名古屋と大阪の難波を結ぶ特急です。ゆったりしたシートで、停車駅も少なくて快適ですよ」

「ぼくね、あおぞら号を見に来たんだ」

 目深に帽子をかぶった駅員は、陸の言葉に少しばかり口元をほころばせた。

「ああ、あれは楽しい列車です。もしかしたら、ほかのどんな乗り物よりも」

「そうなの?」

「あおぞら号の伝説を知っていますか?」

 首を横に振った陸の代わりに、日菜子が言った。

「ソラさん、でしょう? わたしが子供のころから噂になってたけど、今でも修学旅行生が噂にしたりするんですか?」

「子供は、ちょっと不思議な噂話が大好きですからね」

「ママ、ソラさんって何?」

「そうね、ときどき現れるっていう妖怪みたいなものかしら。でも、怖くはないのよ。ソラさんを見かけた子には、幸運が訪れるんだって」

「どんな妖怪? ひとつ目? しっぽがある?」

「姿はふつうの人。でも、あおぞら号は貸し切りなの。遠足とかで乗るときは、同じ学校の友達しか乗ってないはずなのに、知らない子がいる、そういうふうに現れるんだって」

「からくり箱を持っていて、願い事を唱えた箱を開けることができたら、その願いがかなうともいいます」

別冊文藝春秋からうまれた本

電子書籍
別冊文藝春秋 電子版20号
文藝春秋・編

発売日:2018年06月20日

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