哲也は、どうすればあおぞら号が見られるか調べると言って、どこかへ出かけていった。日菜子と陸は、名古屋駅にほど近いビジネスホテルで仮眠をとり、近鉄の駅を確かめようと出てきたところだ。
「ねえママ、あれは?」
長いこと車で移動したにもかかわらず、陸は疲れた様子もなく元気だ。それに、目新しい電車なら興味がわくようで、たった今ホームへ入ってきた、黄色と白のツートンカラーが美しい列車に釘付けになった。これなら、あおぞら号の青と白の車体にも興味を持ってくれるかもしれない。が、長く地元を離れている日菜子にも、黄色と白ははじめて見る車体だった。
「ええと、そうね、ママも知らないわ」
「かっこいいね」
「アーバンライナーですよ」
近くを通りかかった駅員がそう言った。
「名古屋と大阪の難波を結ぶ特急です。ゆったりしたシートで、停車駅も少なくて快適ですよ」
「ぼくね、あおぞら号を見に来たんだ」
目深に帽子をかぶった駅員は、陸の言葉に少しばかり口元をほころばせた。
「ああ、あれは楽しい列車です。もしかしたら、ほかのどんな乗り物よりも」
「そうなの?」
「あおぞら号の伝説を知っていますか?」
首を横に振った陸の代わりに、日菜子が言った。
「ソラさん、でしょう? わたしが子供のころから噂になってたけど、今でも修学旅行生が噂にしたりするんですか?」
「子供は、ちょっと不思議な噂話が大好きですからね」
「ママ、ソラさんって何?」
「そうね、ときどき現れるっていう妖怪みたいなものかしら。でも、怖くはないのよ。ソラさんを見かけた子には、幸運が訪れるんだって」
「どんな妖怪? ひとつ目? しっぽがある?」
「姿はふつうの人。でも、あおぞら号は貸し切りなの。遠足とかで乗るときは、同じ学校の友達しか乗ってないはずなのに、知らない子がいる、そういうふうに現れるんだって」
「からくり箱を持っていて、願い事を唱えた箱を開けることができたら、その願いがかなうともいいます」
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