- 2018.09.03
- 書評
米国系証券会社でトップ・セールスだった筆者だから書けたマネー・ドラマ
文:倉都康行 (国際金融評論家)
『ナナフシ』(幸田真音 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
もっとも、金融危機の最中に同業界に居た人たちは、あの恐怖を決して忘れることは出来ないだろう。私は2001年に米国系の銀行を退職し、独立して市場調査やコンサルの仕事に転じていたために、直接の巻き添えを食らった訳ではないが、2008年秋には世界経済の底が割れるのではないか、と心の底から戦慄したものだ。
確かに現在、景気は回復し、金融市場も安定感を増している。だが金融危機の芽が世界から消滅したとは思えない。いつかまた、悪夢が襲ってくるのではないか、との思いを断ち切るのは難しい。何度も同じ失敗を繰り返す金融は、あまり学習しない業界だと言われることがある。恐らく幸田さんも想いは同じであろう。
深刻な金融危機が発生したのは「貪欲な金融界が暴走したからだ」と結論付けるのは簡単だが、ことはそれほど単純ではない。投資銀行や商業銀行だけでなく、機関投資家、格付け会社、銀行の大株主、そして規制当局など資本主義の役者がほぼ全員参加して作り上げたのが、未曽有の米国バブルだったのである。その意味で、リーマン・ショックもまた金融という舞台における壮大な人間ドラマであった、と言えよう。
そう考えると「ナナフシ」は、二層の人間ドラマとして読むことが出来るように思われる。北田彩弓と深尾真司が奏でる「疑似的親子のドラマ」は、真司が背負う「マネー・ドラマ」によって見事に脚色されているのである。そして後者のストーリーは、米国系証券会社の往年のトップ・セールスであった幸田さんでなくては絶対に書けないものだ。
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