前回までのあらすじ
お金をやりとりする概念のない、「もうひとつの京都」。そこへやってきたありすは、仲間のハチスとナツメの助けも借りつつ、自らの仕事を見つけ出し、新しい生活を始めた。蛙の姿をしたハチスは、実は幼い頃にありすと出会い、淡い恋心を抱きあった蓮だったことが明らかになる。だが蓮は少年の姿のままで、なかなか成長した姿に戻れない。それどころかある日突然老人の姿になってしまい……。
第二章 蓮の旅立ち、ありすの目覚め?
一
何が起こったのだろう。
一夜にして、蓮は、老人になってしまった。
「ありす……」
蓮の口から洩れ出たその声は、嗄れている。
ありすとナツメは、白髪で皺だらけの老人を前に何も言えないまま立ち尽くしていた。
この世界では、人が一瞬にして老いることをありすはよく知っている。
他の誰でもなく、ありす自身が経験したことだ。
それには理由があり、『自分を偽る』ことで、『負』を溜めこみ、老いてしまう。
それなのに――。
「どうして?」
ありすの口から、上ずった声が洩れた。
「だって、蓮はいつも自分の気の向くままに行動しているのに。老いてしまうなんて信じられない。どうして?」
そう、蓮は『自分を偽る』ような人ではないのだ。
ムキになるありすに、ナツメが弱ったように耳を垂れた。
「ありす様……」
「ナツメ、蓮を病院に連れて行こう」
えっ、とナツメと蓮の声が揃った。
「きっと、病気なんだと思う。だってこんなに自分に正直すぎる蓮が、私と同じ理由で老いるはずがないもの」
「いや、ありす、これは病院に行ってどうこうなるものじゃないと思うんだ」
「私もそう思うけど、この世界の病院なんだから、もしかしたら何か教えてくれるかもしれないじゃない。行こうよ」
ありすは、前のめりになって言う。
「いや、だから……」
蓮は首を振りかけるも、ありすの目に涙が滲んでいるのを見て、「分かったよ」と、観念したように息を吐いた。
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