2018.08.30 別冊文藝春秋

『京洛の森のアリス Ⅱ』望月麻衣――立ち読み

文: 望月 麻衣

電子版21号

「別冊文藝春秋 電子版21号」(文藝春秋 編)

前回までのあらすじ

 お金をやりとりする概念のない、「もうひとつの京都」。そこへやってきたありすは、仲間のハチスとナツメの助けも借りつつ、自らの仕事を見つけ出し、新しい生活を始めた。蛙の姿をしたハチスは、実は幼い頃にありすと出会い、淡い恋心を抱きあった蓮だったことが明らかになる。だが蓮は少年の姿のままで、なかなか成長した姿に戻れない。それどころかある日突然老人の姿になってしまい……。


第二章 蓮の旅立ち、ありすの目覚め?

 何が起こったのだろう。

 一夜にして、蓮は、老人になってしまった。

「ありす……」

 蓮の口から洩れ出たその声は、嗄れている。

 ありすとナツメは、白髪で皺だらけの老人を前に何も言えないまま立ち尽くしていた。

 この世界では、人が一瞬にして老いることをありすはよく知っている。

 他の誰でもなく、ありす自身が経験したことだ。

 それには理由があり、『自分を偽る』ことで、『負』を溜めこみ、老いてしまう。

 それなのに――。

「どうして?」

 ありすの口から、上ずった声が洩れた。

「だって、蓮はいつも自分の気の向くままに行動しているのに。老いてしまうなんて信じられない。どうして?」

 そう、蓮は『自分を偽る』ような人ではないのだ。

 ムキになるありすに、ナツメが弱ったように耳を垂れた。

「ありす様……」

「ナツメ、蓮を病院に連れて行こう」

 えっ、とナツメと蓮の声が揃った。

「きっと、病気なんだと思う。だってこんなに自分に正直すぎる蓮が、私と同じ理由で老いるはずがないもの」

「いや、ありす、これは病院に行ってどうこうなるものじゃないと思うんだ」

「私もそう思うけど、この世界の病院なんだから、もしかしたら何か教えてくれるかもしれないじゃない。行こうよ」

 ありすは、前のめりになって言う。

「いや、だから……」

 蓮は首を振りかけるも、ありすの目に涙が滲んでいるのを見て、「分かったよ」と、観念したように息を吐いた。

別冊文藝春秋からうまれた本



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別冊文藝春秋 電子版21号文藝春秋・編

発売日:2018年08月20日

京洛の森のアリス望月麻衣

定価:本体650円+税発売日:2018年02月09日