「金持ちになれる……みたいな本って、どこすかね?」
あまりにも大雑把な問い合わせだが、この手の質問は少なくない。多くの人が“何かの答え”を求めて図書館にやってくる。
「それは……金持ちになるための実用書ということですか?」
一男は、?せた青年の足元に目をやる。白いキャンバス地のスニーカーはずいぶんと汚れており、その踵(かかと)は踏みつぶされている。
「そう。それ的なやつ」
「そうですね……金持ちと貧乏人を比較したベストセラー、もしくはユダヤ人大富豪の教訓をまとめた本などが代表的なものかと思います。あと、ちょっと変わったところで言うと、長財布を持つとか、風水で黄色のものを集めるとか、そもそも金持ちと結婚してしまう方法、みたいなものもあります」二階を指差しながら、一気に答える。「ビジネス書コーナーのBの棚に関連した本がたくさんありますので、探してみてください」
痩せた青年は、あざすと下を向きながら呟(つぶや)くと、階段をゆっくりと上っていく。一男はその猫背をぼんやりと見送る。
彼が「ビジネス書コーナーのBの棚」にある本を読んで金持ちになれる可能性はどのくらいだろうか。世の中にあふれる「金持ちになれる本」。無数のベストセラー。それらを読んで、本当に金持ちになった人間が何人いるのだろうか。けれど毎日多くの人がその手の本を借りていく。まるで宝島の地図を求めるかのように。
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