間の抜けた音で、図書館のチャイムが鳴る。大きな掛け時計が、五時ちょうどを指していた。一男は最近隣町の図書館から異動してきた同僚に挨拶をすると、カウンター裏にかけてあった紺色のダッフルコートを羽織り、小ぶりのリュックサックに荷物をまとめて図書館を後にした。最寄りの駅から電車に乗って三十分。郊外の小さな駅を降りて、駅前の牛丼屋で簡単な食事を済ませる。それから暗い川沿いの道を十五分歩き、銀色の鉄板で覆われた巨大な工場に入った。
縦長のロッカーが一列に並んだ狭い更衣室で白衣に着替え、大ぶりなマスクをし、頭にビニールのキャップをかぶる。ベルトコンベアの前に立ち、次々と流れてくる生地の断片を丸めてパンの形にしていく。同じ格好の人間が一列に並び、定められた時間差で手を動かす様は、風変わりなダンスのようにも見える。途中一時間の休憩を挟み、ひたすらベルトコンベア上のパン生地を丸め続ける。とめどなく続く単純作業。むせ返るような酵母の匂いが、強烈な眠気と相まって意識を混濁させていく。
次第に自分がパンで、パンが自分のような気がしてくる。
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