「じゃあ、遠慮なくいただきますね」
一男が福引き券を受け取ると、隣でまどかも頭を下げる。ありがとうございます。
グッドラック! 老婦人は、まどかの頭を撫でながら声援を送ると、エスカレーターを降りていった。
蛇のようにうねる長い列の最後尾に並び、順番を待つ。ときおりカランカランと甲高い鐘の音が鳴り、それなりの賞品が誰かに当たったことを告げていた。そのたびに、自転車が当たってしまったのではないかと気が焦る。
ハワイ旅行や高級家電が当たる人生とは無縁であると、自然に受け入れるようになっていた。そもそも福引きでハワイに行った人になんて、出会ったことがない。それなのに毎回何も考えずにチャレンジし、あたりまえのようにティッシュを受け取って帰る。
一男はふと思った。金持ちと貧乏人の差とは、福引きにすら現れているのかもしれない。ティッシュしか当たらないと思っている自分には、一生それしか当たらない。ハワイ旅行が当たることを明確にイメージできる人間が、きっとそのくじを引き当てるのだろう。
まどかに袖を引かれ、我に返った。目の前に、法被(はっぴ)を羽織った男がいた。片手には当せんを告げる鐘。一男は法被の男に福引き券を手渡し、八角形の箱のハンドルに指をかける。まどかやる? と振り返ると、まかせたと娘が呟く。一男は明確に“エメラルドグリーンの自転車”を念じ、ハンドルに力を入れた。ぐるりと大きく回す。ガラガラと木箱の中で無数の玉が動き回り、黄色の玉が鉄のプレートに転がり落ちた。
「四等出ました!」カランカランと、勢いよく鐘が鳴る。
一男がボードを見やるのと同時に、法被の男が叫んだ。
「宝くじ十枚!」
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