突然横槍が入り、プレゼンに自己陶酔していた朝香は思わず声を裏返した。見ると、相手方の課長が、テーブルの上に立っているパティの頭頂部を指差していた。無精髭を生やしている、胡散臭い喋り方をする男だ。
せっかくいいところだったのに、と朝香は心の中で舌打ちをした。女性部長が真剣にこちらのプレゼン内容に耳を傾けだすと、途端にこの若い課長がどうでもいい質問をして雰囲気をぶち壊しにする。そうやって何度も調子を狂わされるから、さっきから提案がなかなか先に進まないのだった。
「この黒い突起はですね、角、っていう設定になってます」
「角? 人型ロボットなのに? ちょんまげかと思った」
「黒いので、そう見えちゃいますよね。でも、角なんです」
よく言われる。実際、社員もみんな『ちょんまげ』と呼んでいる。こんなダサいデザインにしたのは誰だ、とパティを最初に見たとき朝香は憤怒に駆られたが、他ならぬ社長のアイディアだと判明し、誰も文句を言えなくなった。
「実は、この黒い突起の部分にカメラが搭載されていて、パティはこの角を使って周りのものを見ているんです」
「へえ、ちょんまげが目なんだ。じゃあ、このパンダみたいな垂れ目はお飾り?」
「いえ、目の部分は赤外線カメラになってます」
「じゃあ耳は?」
「スピーカーです」
「口は?」
「マイクですね」
「人間とは逆なんだ。おもしろ」
課長はにやりと笑い、「ねえ、そろそろ動いてるところが見たいんだけど。提案資料は、読めば分かるしさ」とテーブルの上に身を乗り出した。それを受け、これまで黙って朝香の話を聞いていた女性部長までもが、「そうね。百聞は一見に如かずだし」と言ってパティを眺め始める。二人の横でずっと黙っている若手担当者も、朝香の脇に立たせているパティのことをさっきからちらちらと眺めていた。
「では、先にデモをご覧いただくことにしましょうか。ね、外崎さん」
手前に座っている上司の辻原美子がよく通る声で言い、切れ長の目をこちらに向けてきた。
辻原と朝香の間に、そこはかとない緊張感が漂う。
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