別冊文藝春秋

『オーダー』安東能明――立ち読み

文: 安東 能明

電子版23号

「別冊文藝春秋 電子版23号」(文藝春秋 編)

 生後五十日から三歳未満の子どもを受け入れていて、〇歳から二歳までの三クラス。“はな”“ほし”“つき”と分けていて、それぞれ定員は十二名。〇歳児クラスは十名、一歳児と二歳児は、それぞれ十二名ずつ。現在あわせて三十四名いる。それを正規の保育士八名と派遣の保育士でカバーしているという。小規模な保育園だ。職員とクラスの名簿を見せてもらい、あとでコピーをもらうように頼んだ。柳田に案内してもらい、給食室に入った。

 手前に配膳台があり、奥に大きなシンクがある。柳田が器械について説明してくれた。大量の加熱処理ができるオーブンや消毒保管庫、そして急速冷凍機。どれもステンレス製だ。縦長の大きな冷蔵庫が入り口の右手奥にあった。中を開けて見せてもらった。野菜や肉などの食材がぎっしりと詰まっていた。一番下のところが空いていた。夏場はそこに麦茶を入れたクーラーを入れて冷やすという。

「麦茶をクラスに運んでくるのは担当する保育士の方ですか?」

「はい、つき組担当の三人です。きょうは倉地真弓さん、竹村彩乃さん、それから松岡尚彦さん。事務室で待機してますけど」

 と柳田は頭をそちらに傾けた。

「その三人のうち、きょうの麦茶はどなたが運んできましたか?」

「竹村さんだったと聞いています」

「いつも、その方が運ばれますか?」

「決まりはないですけど、だいたい麦茶を持ってくる保育士が、給食室と往復しておやつも持ってきます。ほかのふたりは、机を拭いたりエプロンを用意しています」

「三人とも正規の職員ですか?」

「はい」

「調理員の方のお名前は?」

「望月佳枝さんです。事務室にいます」

「給食は毎日、その方がおひとりで作られるんですね?」

「はい」

 園児が多くないとはいえ、なかなか大変ではないか。

「こちらはいつ開園されました?」

 筒見が訊いた。

「去年の四月にオープンしました。東京都の認証保育所になっています」

 親会社は仙台の人材派遣会社で、十年ほど前から東京都内に複数の保育園を開設していて、そのうちのいちばん新しい保育園になる。以前は居酒屋の店舗だったが、保育園に改装したという。防犯カメラはひとつもついていなかった。

 まもなく鑑識が到着するので、このままにしておいてくださいと筒見は要請し、事務室に移動する。

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版23号文藝春秋・編

発売日:2018年12月20日


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