靴を脱ぎ、スリッパに履き替えて中に入った。古い建物を改装したような造りだった。廊下の右手に、ふたつの保育室が並び、その向かいにも保育室と事務室、その奥に給食室がある。事務室で待機している職員たちが、こちらを振り返った。男性の保育士もいる。
柳田に案内され、つき組の保育室に足を踏み入れた。
人気がない、がらんとした広い部屋だ。木製の床に整理棚や収納棚が備え付けられ、壁に動物たちの絵が貼られている。入り口脇のワゴンの上に、黒いポータブルクーラーがあった。問題の容器のようだ。注ぎ口がひとつのタイプで、5Lと容量が示されている。横にプラスチックのコップが収められた食器カゴが置かれていて、その前にふたつのコップが出されていた。
「これがふたりが使ったコップです」
柳田がそのコップを指した。中身は入っていない。すでに乾いている。
「子どもさんが自分で注ぐんですか?」
「いえ、保育士が注いでテーブルに配ります」
クーラーの中には、まだ麦茶が残っていると教えられた。
筒見がビニール手袋をはめ、食器カゴの中から使われていないコップを取り出した。クーラーの注ぎ口のコックを引いて、一センチほど注ぎ、鼻に持っていった。異臭はないようで、沙月もコップを受け取り、同じように嗅いだ。においはなかった。
被害に遭ったふたりの子どもの名前をメモしてから、筒見が麦茶はどこで作ったのかと訊いた。
「給食室です」
柳田が体をひねって、そちらの方を向きながら答える。
「何時ごろですか?」
「麦茶を出すのは三時のおやつの時間ですが、午前中に給食室で煮出してから、シンクや冷蔵庫で冷ましておきます」
「職員の方々は麦茶を飲みませんか?」
「保育士の麦茶は、お水だけ給食室からもらって、事務室で水出ししています」
「調理員は何人ですか?」
「補助員も入りますが、ふだんはひとりです」
「きょうは補助員は入りましたか?」
「いえ、ひとりだけでした」
「異物を飲んだ子どもさんは何歳児クラスになりますか?」
「二歳児クラスです」
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